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◆第四軍における害獣駆除対策用動物の借用について (スティール視点)

仕事で第四軍に行ったら、見覚えある薄汚れた灰色の固まりが廊下を歩いていた。
口にはねずみをくわえている。あれってもしかしてラーディンの家の飼い猫モップじゃないのかな。

「あぁ、第一軍に働き者の猫がいるって噂を聞いてな。借りたんだよ」

と教えてくださったのは第四軍将軍ディ・オン様。やっぱりモップだったんだ。
けどなんでうちから借りたんですか?第四軍に猫を飼ってらっしゃる方はおられなかったんで?

「さー?猫自体は食堂のモンが借りてきたみてえでな。俺らが探したわけじゃねえんだ。いつの間にか食堂にいた」

そ、そうなんですか。
首輪してなかったけどいいのかな?

「問題ねえよ。動いてっから、踏むことはねえって。寝てたら知らねーけどなっ」

そんなんでいいんですか、ディ・オン様。一応、借りてきた猫だと思うんですが。

「ん〜?そうか?んじゃ一応対策考えておいてやるよ」

不安になりつつ第四軍を後にした。

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後日、第四軍に行ったら、カラフルな色に染まったモップがいた。

「気の毒な毛の色のヤツがいるってシード副将軍に相談したら、いい髪粉を下さったんだ!さすがシード様だよなー。みろよ、あの毛の艶!綿埃みたいだった猫とは思えねえだろ?」

そういえば対策考えておくっておっしゃってたな。それでか。
俺の発言が原因なのか、ちょっと責任を感じる。
それにしても凄い色だなぁ…水色って…。

「本当はシード副将軍みたいな藍色がよかったんだけどよ!微妙に染め損ねたみてえであんな色になったんだ。けどいい色だろ?」

染め損ねたんですか。
ちょっと返事できないなぁ。いい色なのかなぁ…。
ラーディンは知ってるのかな。一応飼い主なんだけど。まさか飼い猫が染められちゃうなんて思ってもいなかっただろうに。

微妙な心境で第四軍将軍用執務室を出て、廊下を歩いていると、途中で第五軍のシード副将軍に会った。ディ・オン様にご用があられるらしい。
話しかけられたんで、猫の毛色のことを話すとシード将軍は目を丸くされた。
普段はちょっと目つきの悪い方だけど、話してみると口が悪いだけで、ごく普通の方だ。
そして驚かれると印象が柔らかくなられる。ちょっと可愛い。初めて知った。
そんなことを思っているとシード副将軍は一気に爆発された。

「あのバカ!!気の毒な毛の色って猫のことだったのかよ、聞いてねえぞ!!
猫は毛繕いする生き物なんだぞ、染めてんじゃねえ!!
ディ・オンは何処にいるんだ!?中か!?」
「は、はい。執務室に」
「ちょうどいい」

走り出そうとされたシード副将軍はちょうど曲がり角を歩いてこられたディ・オン様とタイミングの悪さでぶつかってしまわれた。
ディ・オン様は体格がいい。少しよろめかれただけだった。

「痛ってえ…悪ぃ!よく見てなかった」
「いえ、胸に飛び込んできてもらえるなら大歓迎ッス!」
ディ・オン様はむしろ嬉しそうだ。
「……って、てめえかーー!!」

一気に爆発されたシード様はその場で猫の染毛について説教を始められた。
うんうんとディ・オン様は頷かれているけれど、とても嬉しそうだ。
なんだかなぁ…説教されている雰囲気には全然見えない。
怒ったシード様は通りすがりのモップを捕まえて、責任持って洗うといい、連れ帰っていかれた。
被害にあったのはモップだろう。ちゃんと落ちるのかな。凄い色だったけど。

<END>

大ざっぱで豪快なディ・オン。猫の飼い方も大ざっぱ。
「あれ?水色になっちまった。……ま、いっか!」という感じです。

おまけ話