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◆第一軍の食堂における害獣対策について (スティール視点)

ラーディンが埃の固まりみたいなのを片腕に抱えてきた…と思ったらラーディンの家の飼い猫モップだった。
相変わらず、ひどい色だなぁ。洗ってないのかな。
それにしても一体どうしたんだろ。第一軍本舎まで連れてくるなんて。フェルナンに見つかりでもしたら絶対嫌な顔されるよ。汚すぎだもん。

「ん?出張。一軍の食堂付近にねずみが出るようになったんだと」

出張ってモップが?何でモップが?他にも猫いたよね?ラーディンの家には。

「しょーがねーだろ。目に付いたところにいたのがこいつだったんだよ。これでも時々洗ってるんだぜ」

洗ってもこの色なんだ…。

「あぁ、この色、地毛だぜ、こいつの」

なんて気の毒な色だろ。じゃあ早いとこ、ねずみ退治してもらって家に帰ってもらわないとね。フェルナンに見つかりでもしたら絶対…。

「私がなんだって?」

やば!!

「あ、フェルナン様。食堂のねずみ対策用の猫連れてきました。色悪いですが地毛なんでお許しを」

さ、さすがラーディン。そつのない説明だなぁ。
フェルナンは軽く顔をしかめて猫を見ている。だから地毛なんです。

「飼い猫ならばせめて首輪をつけるように。それじゃ間違って踏みそうだからね」

え?首輪?問題はそこなんですか?踏みそうって何だかなぁ…。

「容姿というのはどうにもならないものさ。顔がどうにもならないように毛の色もどうにもならないものだからね。そんなことで怒るほど心狭くはないつもりだが?」

顔……あぁ顔ですか……。
じゃ、モップ、仮の物で悪いけど、俺の髪用の革ひもを首輪代わりに結んでおいてあげるよ。

「……スティール……」
「………」

フェルナンは微妙そうな顔をした。ラーディンも複雑そうな表情で顔を逸らす。
一体何なんだろ。

結局フェルナンは無言で去っていき、ラーディンの手から離されたモップは早速周囲の匂いをかぎつつ、周囲の下調べを始めた。
ラーディンに耳元で囁かれる。

「す、スティール。出来れば髪を解くのは止めてくれ」

ええ?意味判らないんだけれど。

「お前が髪解くのって……ほら、風呂とか寝るときぐらいだろ!」

まぁそうだね………あ、そういうことか。
確かにラーディンたちはそういう時しか見ないよね。実際俺だって風呂かそういう時ぐらいしか髪を下ろしてることってないからなぁ。

「代わりの紐持ってねーのかよ。どっかで手に入れて来いよ」

そんな急に言われても換えの紐なんて持ち歩かないし。
あ、リリアだ。ちょうどよかった。彼女に借りるよ。

「待てよ!それぐらいならそのままでいろって」

ええ?訳わかんないよ、ラーディン。なんなのさ。

<END>

モップ、しばらく近衛軍へ出張の巻。
モップは長毛種の雑種猫(元ノラ)です。