第四軍副将軍の一人クラーゼは、茶色く柔らかなウェーブを描く肩までのくせっ毛を持つ遊び人だ。
プライベートは最悪だが、仕事は完璧という評価を受ける彼は食堂の片隅に水色の毛の固まりがあることに気づいて、手近な席に座りつつ、近くにいた騎士に問うた。
「おい、なんだあれは?」
近くにいた騎士はクラーゼの問いに笑いながら答えた。
「猫ですよ。元々があまりに汚い色だったのでディ将軍が染められたそうです」
「へえ…」
「なんじゃ、あれはディの仕業だったのか!」
近くに座る大隊長の一人オンガルが呆れ顔で言った。小柄だがしっかりした体つきの彼は初老に近い年齢でありながら現役を続ける老将の一人である。
「どうせ染めるならもっと渋い色にすればよいものを、水色など趣味の悪い。どれ、今度ワシが髪粉を持ってきてやるか。家によい髪粉があるからのぉ」
オンガルの台詞にクラーゼはちょっと驚いた。
「じーさん、あんたその少ない髪を染めていたのかい?」
「少ないとはなんだ、少ないとは!今にみておれ、お主もそのうち、そのふさふさ感がなくなってくるのじゃからな!!」
「酷いな〜、俺の髪がなくなったら、枕を涙で濡らす子が多発して大変なことになるよ。けど髪を染めるというのはいいねえ…試してみてもいいなぁ」
そこでクラーゼはふと気づいた。オンガルの髪は本来、黒だ。
「じーさん。あんたの髪粉って白髪染めだろう?持ってくる髪粉は黒の予定かい?」
「水色よりマシじゃろう!何なら、渋染め用の染料もあるぞ。草や果物の皮から作られた染料でのぉ、均一に染まりにくいという欠点があるのじゃが、これもまた魅力と申すか、微妙な色具合がまた風情があるというか…」
ようするにグラデーションに染まる染料らしい。しかも本来は布用だろう。
均一に染まってない猫というのもどうかと思いつつ、クラーゼはちらりと当の猫を見た。
その猫は「お主、そんな色でネズミに逃げられたりしないのか?」と大隊長の一人であるガースに問われている。
「心配いりませんよ。関係なくネズミを捕まえてますからね」
と笑いながら食堂の従業員。
「ほぉ、腕が良いのだな」
猫はガースに抱き上げられた。
「一晩、我が家に貸してくれ」
「困りますよ、隊長。第四軍食堂用猫なんですから!」
焦った様子で食堂の若手であるリズが猫を取り返す。大隊長相手に怯まないあたり、なかなか度胸のある子だ。
「なんだ、けちくさい。貸出料を取る気か?」
ため息混じりに猫を奪いながらガース。そんなに猫を借りたいのかとクラーゼは思った。ネズミだらけの家など嫌だ。
「違いますよ、勘弁してください。こっちもネズミ被害は切実なんですから」
また猫が取り返される。
「ったく、しょうがねえな」
「そいつぁこっちの台詞です!」
「にゃー!」
猫が奪い合いになっている。みかねたクラーゼが制止しようかと思っていると、先にオンガルが動いた。
「止さぬか、みっともない!!猫ならうちにいるのを一匹貸してやるから、やめい!!」
「なんだ、じーさん、猫を飼ってたのか?」
クラーゼが少し驚いて問うとオンガルは頷いた。
「うむ。……ガース、一晩、ワイン一本でよいぞ。一匹につき一本じゃ」
「貸出料取るのかよ!!」
その間に猫はさっさと食堂を出て行った。
<END>
個性豊かな第四軍幹部メンバー。
将軍であるディ・オンを尊敬していないところが共通点です。