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◆震天の腕輪(しんてんのうでわ)(4)



兄とお茶を楽しんだ後、レナーテは自室へ戻った。
女の子らしく、愛らしい品々で囲まれた広い部屋でレナーテは寝台に座った。
レナーテは寝台に座るのが好きだ。椅子よりものんびりくつろげるのだ。
聡明な彼女は聡明な人物が好きだ。そんな彼女は数多い兄弟の中で三兄コンラッドが一番好きだ。三兄は打てば響くように返ってくる頭の良さを持っている。話していて刺激があり、楽しいのだ。

(これで鍛冶師たちは大丈夫。コンラッドお兄様に任せておけば安心だわ)

三兄は頭がいい。鍛冶師たちを救うべきか見捨てるべきかの判断は彼がしてくれるだろう。
三兄が見捨てるのであれば、救えぬと判断するだけの状況となったとき。
救おうとするならば最良のタイミングで動いてくれるに違いない。
だから三兄に任せておけば大丈夫なのだ。
継承権は持っていないが、家の中では大きな力を持つ兄だ。長兄も次兄も、三兄には一目置いている。何より彼は『アンリ・ブレス』に選ばれた人物なのだ。使い手を選ぶ大いなる風の腕輪に選ばれた人物。誰も無視できぬだけの力を三兄は持っている。

レナーテは侍女から鍛冶師たちを助けてくれと頼まれていた。
その侍女は仲介役だった。調べてみると、何らかの関係者が鍛冶師たちを救おうとしていることがわかった。
聡明なレナーテにもその関係者がどういう素性の主なのかまでは判らなかった。ただ、その関係者たちが大国ガルバドスがらみである可能性には気づくことができた。

(一個だけ嘘をついちゃった。バレちゃうかしら)

兄には全員が『聖マイティスの鍛冶師(グラジ・エティスト)』だと話したが、実際は軍人が混ざっているのだ。全員を助けてほしくてそう言ったが、兄は気づくだろうか。

(兄様だもの。その辺の判断も任せちゃって大丈夫だろうけれど)

哀れな捕虜を助けてほしいと思う。
けれどガルバドス国がらみとあっては、本当に助けていいのかどうか判らない。
頭のいい兄は必ず真の素性に気付くだろう。問題は気付いた上でどう判断するかだ。
思慮深い兄だ、悪いようにはしないだろうが……。

(さすがに軍人さんは殺しちゃうかしら……)

一人だけ死なせるのは忍びなくて嘘をついてしまったが、あの聡明な兄がレナーテの嘘にごまかされてくれる可能性は低い。
レナーテは小さくため息をついた。