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◆霧に霞みし夢を見る(3)


サフィンは奇妙なことになった、と思った。
第二軍大隊長である彼は副将軍であるフェルナンの親友であり、将軍ニルオスともプライベート面で縁がある。
そんな彼はニルオスの恋愛沙汰に巻き込まれやすいという厄介事の縁もあった。
特にアルディンがらみでは縁があり、そのことをサフィンは少々迷惑に思っていた。
ニルオスとアルディンの恋愛沙汰など金輪際関わりたくない。そう思っていたサフィンだが運命はそう易々と見逃してくれないらしい。
たまたま夜勤であったサフィンの元へ飛び込んできた情報は厄介事以外の何者でもないものであった。

(絶対に表沙汰にできないな、これは…)

色恋沙汰で第二軍幹部が拉致されたなど醜聞以外の何者でもない。秘密裏に処理しなければならない問題だ。
しかもその情報が他軍から入ってきたというのもマヌケだ。一体何をしていたのかと叱責されても当然だ。

(だが今はとにかくフェルナンとニルオスを助けなければ)

表沙汰にしないためには最低限の人数で救出する必要がある。
しかし第二軍幹部を拉致したほどの相手だ。かなり優れた腕の持ち主だろう。ニルオスはともかくフェルナンは腕が立つ。それを拉致したのだからそれだけで相手が只者ではないことが判る。
サフィンの悩みは直ぐに解決された。
情報を提供してきた第五軍が援軍を出してくれるという。それも将軍職二人自らが手伝ってくれるというのだから豪華な援軍だ。
サフィンの決断は早かった。他軍とはいえ、どうせ知られているのだ。アルディンとシードは腕が立つ。戦力としてはこの上ない相手だ。今は確実にフェルナンとニルオスを救う道を選ぶべきだろう。

(しかし顔が良すぎるというのも考えものだな)

容姿の良さで拉致された友を思い、サフィンはため息をついた。


++++++++++


第五軍からの援軍である将軍職二人は、目立たぬよう暗色のコートを羽織り、一般民の姿をしていた。
たまたま残業をしているときに情報が入ってきたという二人は、夜勤ではなかったため、職場を抜けてきても何ら仕事に影響はないらしい。
サフィンは二人と西区の一角にて合流した

「こいつが行くと言い張るんでな…放っておけねえだろ」

そう告げるシードは本当に一般民そのものの姿だ。そのまま市井にとけ込めそうなほど違和感がない。
一方、その隣に立つアルディンは貴族の貴公子そのものだ。シードと大差ない姿だというのに上品で清冽な空気や闇夜に光るプラチナブロンドが服装に似合っていない。どう見ても『お忍びの貴族サマ』としか思えない姿だ。
実際、アルディンの生まれは大貴族ミスティア家なので間違ってはいないだろう。
その容姿の良さはフェルナンと大差なく、似たような意味で野放しにしていては危険そうだとサフィンは思った。

(確かに野放しにしては第二の犠牲者になりそうな人だ…)

何となくシードの普段の苦労を垣間見た気がして、親近感が沸きそうなサフィンである。
急遽集めた情報によると、フェルナンたちは西の歓楽街の一角にある娼館に連れ込まれたという。
しかし現在は運営されていない建物らしいので、正しくは娼館として使われていた建物に連れ込まれた、というべきだろう。

「アルディン、派手にやり過ぎるなよ」
「……あぁ」
「表沙汰にするわけにはいかないんだからな」
「判っている」

会話を交わす第五軍ペアの姿を見つつ、サフィンは建物の影の方に目を向けた。手はずによると囮となる部下たちがそろそろ騒ぎを起こすはずである。
チカッと一瞬、紅い光が見えた。合図だ。
将軍職二人にも見えたのだろう。目の前の二人が同時に動くのが見えた。