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◆サフィールの港町日記(4)

更に翌日。
サフィールはまたも耳ウサギ亭で新たな客を迎えていた。
どうやら凄腕の医者が来ていると少々噂になっているらしい。その噂を聞きつけてきたらしかった。

「……俺は治療に来たわけではなく、薬の材料の買い付けに来たんだ。迷惑だ」

しかめ面のサフィールはそうぼやいたが、相手を見て軽く眉を上げた。
生真面目そうな男は海軍の服を身につけ、困り顔であった。しかし必死な様子で診てくれないかと頭を下げている。

「仕方ないな……今回限りだぞ」
「ありがとう!!」

断る気満々だったサフィールだったが、気を変えたのは理由があった。

(フィーみたいなヤツだ)

恋人に似た好みの相手には少々優しくなるサフィールであった。


++++++


フィールードによく似た相手の恋人だという騎士は、サフィールに似たタイプの無口な青年であった。

自分たちに似たタイプのカップルを相手に少々複雑な気持ちになりつつ、サフィールは仕事と割り切って相手の怪我を診た。
無口な青年は海賊との海戦で印に傷を負ったという。
派手な刀傷が印を横切った上、神経もやられたらしく、腕がうまく動かないということだった。

「印と神経の再生か。怪我直後だったら殆ど問題なく治せただろうが時間が経っているから完璧にはいかないぞ。せいぜいマシに出来る程度だ」
「かまわん。今より回復するのであればありがたい」

即答する男にサフィールは頷いた。

「では治療するぞ」

サフィールが聖ガルヴァナの腕を発動させると男の目が見開かれた。

「四本か。今までも見たことはあるが、一本のみだ。四本も操れる使い手は初めて見た」

サフィールは男の呟きに答えることなく治療を開始した。
聖ガルヴァナの腕は難しい技だが、熟練すると腕を増やすことができる。だが一つ一つに大きな力と集中力を伴うので増やせる者は少ないのが実情だ。
しかしサフィールは並外れた高い集中力を持っている。その集中力ゆえに複数の腕を操る技を可能としていた。
生気の腕で体の中を探っていく。男の体の生気の流れを読み取り、断ち切られている部分を確認していく。細い神経の一つ一つを確認し、断ち切られている部分を別の腕で生み出した糸によってつなぎ合わせていく。つなぎ合わせた神経を更に別の腕が癒しの技で癒やし、再生を促していく。
傷によって堅くなった皮膚を解して柔らかくし、生気を吹き込んでいく。
すべてを同時に行いながら、サフィールは完全に外界をシャットアウトしていた。
並外れた集中力でサフィールは完璧に治療を成し遂げた。

「………疲れた。治療費はボッたくるぞ」

サフィールが宣言し、告げた治療費に男は呆れ顔であった。

「そんなものでいいのか?全然安いぞ。それでは申し訳ないぐらいだ。君の宿泊場所の宿泊費も負担しよう」
「そうか、じゃあ頼む」

疲労のせいでしかめ面をしつつ答えたサフィールだったが、フィールードによく似た青年の嬉しそうな笑顔で傾いた機嫌は直っているサフィールであった。