近衛騎士には貯金を貯めておくことができる独自の金融機関がある。
殆ど貯金を気にかけたことがなかったコーザは何年ぶりかに己の貯金を確認した。
金額は予想以上の金額だった。一つは大隊長位という高位であることも理由だろう。いわゆるエリートの中のエリートであるため、給金も高額なのだ。
これならばたとえ働けなくなっても食べていくのに困ることはないだろう。そう思ってコーザはホッとした。
(何やってんだ、俺……)
傭兵などやったこともない。そもそも近衛軍しか知らない身で流浪の旅についていくことなど出来るのだろうか。
それでなくてもセイには新たな相手がいるのだ。追ったところで迷惑だろう。
そう思いながらも足はいつもの酒場に向かっていた。
酒場に入るとセイの友人の一人が入り口近くの席で酒を飲んでいた。樽のような体を持つ斧使いだ。
「昼から酒かよ、おっさん」
軽口でからかいながら同じ席に座ると、セイと同世代の黒髭の男ガルツは大声で笑った。
「昼から酒を飲める商売だから傭兵なんかしてるんだろうが。セイならいねえぞ」
「あー…それなんだけどよ、おっさん。俺、セイと別れちまったんだよな。セイの新しい相手って誰なんだよ。そいつと一緒に故郷に帰るから俺とは別れるらしいんだよ」
コーザが愚痴るとガルツは目を丸くした。
「何言ってんだ、お前。俺がその相手だ。俺とセイは西にあるキーリスの生まれでな。まぁウェリスタに比べれば遙かに小さい国なんだが、近隣には中堅国家が幾つかあって、こっちほどじゃねえが、仕事もそこそこあるんだ。だが俺ぁセイと深い仲になった覚えはねえぞ」
それはそうだろう。ガルツは完全な女性専門なのだ。セイとは完全な友人づきあいだとコーザは知っている。
「あいつにお前以外の相手なんか聞いたことぁねえぞ。だがお前に関しちゃ、ちょっと聞いてるぜ。どう話をしようかって迷ってたみてえだからな」
そこまで話してガルツは軽く顎をさすった。
「いけねえ。どうも話しすぎちまったみてえだ。セイには俺が話したって言うなよ。殴られちまう」
コーザは自然と己の表情が緩んでいくのを感じた。
「ありがとよ、おっさん。こいつは礼金だ。だからあとでセイに怒られてくれ」
「何だとぉ!?」
怒りかけたガルツはコーザが卓上に放った銀貨を見て苦笑した。酒代にしては多すぎる額だ。3〜4日はたっぷり酒が飲めるだろう。
「ちっ、しょうがねえな」
暗い表情だったコーザが笑んでいるのも悪くない。怒られてやらぁとガルツは笑った。