やけ酒のように酒を好きなだけ飲んで寮へ戻り、食堂へ向かう。
騎士は警備も担うため、夜勤もある。そのため食堂も24時間開いている。
水を貰おうと調理師に声をかけると後ろから名を呼ばれた。
(ラグディスか。タイミング悪ぃな)
普段は気にならないが、今夜は会いたくない相手だった。
内心舌打ちしていると、相手はいつものようにコーザに近づいてきた。
「帰ったのか。今日は帰らないかと思ってた」
思いがけず出会ったことが嬉しかったのだろう。いつも殆ど無表情の相手だが、言葉や表情に少し嬉しげな様子が見えた。
(そのつもりだったよ、俺も…)
ラグディスはコーザより8歳ほど年下の相手だ。
珍しい蒼い髪と金色の瞳を持つ彼は、硬質な美貌を持つ青年だ。
ラグディスが士官学校時代にコーザが助けたことがあり、以来、ずっと慕われている。
ラグディスはコーザに恋人がいることを知っている。コーザは幾度か断ったが、ラグディスは変わりがなかった。想いが返されることはないと知っていながらずっと思ってくれている。
受け取った水を飲んでいると、ラグディスは特に何をするでもなく隣にいる。コーザが水を飲む間は側にいるつもりなのだろう。交際を断っている分、露骨ではないが、言われれば気づくような、そんな好意をラグディスは見せる。
(今夜は一人で寝たくねえな…)
そんなことを思っていると食堂に新たな人物がやってきた。
同じ大隊長。しかし最年少である同僚だ。
仲の良い相手の姿に、ちょうどいい、とコーザは思った。
「おい、スティール。今夜開いてるか?」
スティールは軽く瞬きし、はい、と頷いた。
「ちょうどいい、お前の部屋に泊めろ」
「はあ?何でですか?」
「いいから、泊めろ。別に怪しいことをしようって誘ってるわけじゃねーからいいだろ。んじゃ先に部屋に行ってるな」
「ええ?」
スティールは複数印持ちで相手も複数な分、気楽で都合が良い。
元部下だから命じやすいし、呑気な気性も判っているから、下手なもめ事にはならないだろう。抱き枕代わりにちょうどいいのだ。
カップを返却して廊下を歩いていると早足で追ってきたラグディスに名を呼ばれた。
無視していると腕を掴まれる。
蒼い髪から覗く金色の瞳に間近で見つめられる。
「俺じゃ駄目なんですか?」
「あたりまえだ」
マジなヤツを相手にする気はない。面倒事になると判っている。
たとえ遊びでもいいと言われようが、そんな不誠実なことをする気にはならない。
「今夜だけでいいと言ってもですか?」
「あ?何だって?」
待っていたんです、とラグディスは告げた。
「このままじゃ俺も諦めきれない。一度だけのチャンスを待ってました。
コーザとあの人が喧嘩する機会を。スティールと寝るぐらいなら俺にチャンスを下さい」