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◆孤独の夢

コーザは近衛第一軍第五大隊の隊長だ。
騎士としては十分高位。優秀な彼は元々孤児の生まれであり、末端から立身出世した人物だ。
そんな彼は長く付き合っている相手がいた。
よく日焼けした身体に短く刈り込んだ白に近い金髪、黒い目を持つ人物で、名をセイと言い、腕のいい傭兵であり、コーザより年上の人物であった。


「は?今、なんて言った?」
「だから、別れようってんだ」

場所は王都の一角にある冒険者や傭兵向けの酒場である。
飲んでいて唐突に告げられた言葉に何の冗談だとコーザは思った。
新米騎士の頃から付き合ってる相手とはもう十年近くなる。
当然ながら何度も喧嘩をしたし、実際に離れていた時期もあった。しかしそのたびに和解し、なんだかんだ言いながらもやってきた。コーザは結婚まではせずともセイと一生連れ添うつもりでいた。そして相手もそのつもりだろうと思っていたのだ。

「引退しようかと思ってな」
「引退?だったら俺が…」
「養うなんて言うなよ。お前の方が遙かに高給取りだってのは知ってる。だが俺もプライドや譲れねえ部分はあるんだよ」

セイはコーザより10歳以上年上の四十代だ。壮年の彼は頑張ればあと数年は第一線で働けるだろう。しかし戦場は甘くない。肉体的に限界を感じたらそこが引き時だ。そして引き時を誤れば死に繋がる。コーザのように隊を動かす立場ではなく、最前線で剣を振るう立場なら尚更だ。

「故郷に帰ろうかと思ってなぁ」
「……それは…」

セイは傭兵として各地を流れて生活している。
現在は一貫してウェリスタ国側で働いているが、元々は遠い西の小国の生まれだと聞いていた。

「お前にゃ話してなかったが、実はちょっとイイ相手もいてな。あっちが故郷だって連中も幾人かいる。そいつらと拠点をあっちに移すつもりだ」

拠点というのは流れていく傭兵たちが基本となる土地を選ぶことだ。
セイは今までウェリスタ国中心に働いていたため、拠点は王都だった。そして内乱や小競り合いなど発生する戦いに応じて王都からその土地に向かっていたのだ。

ショックを受けて黙り込むコーザにセイは苦笑した。

「お前は若い。まだ間に合う。イイ相手見つけて幸せになりな。今までありがとよ」