文字サイズ

◆シードの見合い話 その15 (シード視点)


(ベルクートの実家にて)

ベルクートの実家に紹介された。
実は一度行ったことがある。まぁ当然ながら見合いの時なんだが。
今回はさすがにちょっとニュアンスが違うよな。

「シ、シード、その紹介したいというか、紹介せねばならない相手がいるんだが…」
「あぁ」

まぁ当然だろう。むしろ挨拶はちゃんとしておかねえとな。
内心、心構えをしていると、ベルクートが杖をついたじいさんを連れてきた。
随分、ご高齢な方だな。この方がベルクートの父君なのか?

「シード、彼は俺の育ての親というか爺やだ。爺、前にも話したと思うが、こちらが俺の相手のシード殿だ」

ちょっと待て。なんで爺やなんだ。ご両親はどうした、ご両親は。順番が違うだろうが。
こう言っちゃ何だが、むしろ、爺やなんかどうでもいいだろうが。

ご高齢なじいさんはぷるぷると震えたかと思うと、軽く咳払いし、ぺこりと一礼された。

「お会いできて光栄に思います。私、アーティ家に仕えて75年!となります、執事兼、ぼっちゃまの教育係兼、庭師兼、花師のペトムと申します。
このたびは遠く王都よりミスティア領ギランガの町にあります当アーティ家までお越し頂きまして、誠にありがとうございます。
当家はおよそ10代前の当主キリマより続きます由緒正しき伯爵家でございまして、次期当主となられますベルクート様まで、このギランガをお預かりし、時には町を侵略する海賊と戦い、時には他国からの猛攻に耐え、更にはミスティア領全体を狙う悪しき侵略者からミスティア領主様の手足となって奮戦してきた戦士の末裔でもございます。
現ご当主様も、そして次期当主ベルクート様も、常に町の繁栄を願い、日々、真面目に働きになられておられます。その目は常に将来を見据えて、町の繁栄のため、更にはミスティア家のために、長期的な視野を持って、ギランガの頭領として町をまとめておられるのでございます」

おいおい、いつまで喋る気だ。何というか言葉を挟む隙もねえ。
っつーか、相づちを打つ暇もねえ。
高齢なのに実に口が達者というかしゃべり上手な爺さんだ。
もう、すでに挨拶の域を超えているっての。これじゃ演説じゃねえか。
しかし、爺さんは更に続けた。

「ベルクート様も次期ご当主となられます身。将来有望な方でございます。
このたびの春に行いました町民調査では『次期当主への期待度』で堂々の85%をお取りになられました。これは歴代では堂々の1位となられます快挙でございます。当然ながら町民の次期ご当主となられますベルクート様への期待がいかに高いかを示すものでございます。
そのベルクート様のご正妻となられますシード様へのご期待も当然ながら高いものとなりますでしょう。
重圧や不安などあられますかと思いますが、この爺がございます!
人生は100年と申します。爺にもあと何十年か残されております故、その時間を精一杯、ベルクート様のご正妻となられますシード様の為にお使いいたします所存でございますので、是非よろしくお願い致します」

延々と話が続くっぽかったので、半分聞いて半分流そうかと思っていたが、気になるところが満載で思わず真面目に聞いてしまった。
なんだ、町民調査って。しかも当主への期待度なんか調べてどうするんだ?低かったら当主になれねえのか?
しかも、なんだ85%って。正確な数字なのか、そうなのか!?

「さて、当アーティ家の歴史は…」

まて、まだ話が続くのか!?
っつーか、何で爺さんの演説を聞かなきゃならねえんだ。
そもそもご両親への挨拶はどうした。そっちがメインっつーかそのために家に呼んだんじゃなかったのか?この爺さんの挨拶がメインだったんじゃねえだろうな!?
思わず疑惑の眼差しをベルクートへ向けると、ベルクートは何やらメモっている。
ちょっと待て。何をメモってんだ、お前。まさか爺さんの演説をメモってんのか!?こんな演説をメモってどうする!?
しかし、爺さんの演説は更に続いた。

「……〜であり、当家は誠に海の戦士の家系であり、ミスティア家の繁栄と共にアーティ家の歴史もまた、歴史の一ページに刻まれるという形で…。ゴホン!ゲホゲホ、ゴホン!!」

延々と喋りすぎだっての、爺さん。20分以上喋ってたら、そりゃ喉も渇くだろ。高齢なんだからよ。ほら、水飲め、水。

「うう、次期奥方様、ありがとうございます。この爺、優しきお心は一生忘れません!人生は100年と申します。残る年数をこの爺は奥方様と共に数十年ほどは頑張るつもりでございまして……」

いや、いいから、落ち着け。
人生100年はともかくとして、俺と一緒に頑張らなくていいからよ。
ついでに言えば、奥方様はやめてくれ。まだ奥方じゃねえっての。
あと数十年ほど生きるつもりなら、もうちょっと大人しく体を大事にしてろ。

「おお、次期奥方さま、この爺のお体まで気遣ってくださるとは何とお心広い!爺は安心致しましたぞ、坊ちゃま!」
「そ、そうか…」

そうかじゃねえだろ、ベルクート。認められたと喜んでる場合じゃねえ。もう少しこの爺さんを止めろ。

「では次期奥方様、夜も遅くなりました。この爺が次期奥方様の為のお部屋へご案内致します。こちらでございます。大丈夫ですぞ、ちゃんと坊ちゃまの部屋のお隣でございまして、この爺が心をこめて準備致しました部屋でございます」

爺さんが用意した部屋って何だ。
それより、ご両親への挨拶をさせろっての。

「ご当主夫妻は本日、親族のご不幸があられまして、不在であられます。そのため、坊ちゃまが留守をお守りになられておられます」

はあ!?留守かよ!?それを早めに言えっての!!


<END>