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◆シードの見合い話 その14 (シード視点)


王都とギランガの間の町で、いつものように待ち合わせをした。
いつもやたらと質の良い店に入るんだが、ギランガで場末の店に入っているところを俺に見られたせいか、今度は一般的な飲み屋だった。
別にいいけどよ、しかしうるさくて騒がしい店だな。
俺も軍人だし、騒がしいことや汚い店も気にならねえが会話もできねえような騒がしさってのは迷惑だ。
ベルクートは慣れているのか、それとも気にならないのか、普通に地鶏の料理を食っている。別に配慮しろと言ってるわけじゃねえが、会話もできねえ騒がしさなのに気にされていないっつーのは、無視されているかのようでちょっと気に障る。
内心、ちょっとベルクートへの評価を下げていると、近くの席にいた男の肘が当たった。

あー、うぜえ。飲んで騒ぐのはいいが、痛えんだよ。もうちょっと周囲を見て飲め。

そう苦情を告げると若い男数人のグループはカップルが調子にのりやがってと絡んできた。
ますます、うぜえ。やる気か?
さてどうするかと考えていると、視界の先でベルクートが酒を飲んでいるのが目に入った。
おいおい、それはウオッカだろ。ちゃんとある程度薄めて飲めよ。倒れるぞ?
そう思っていると、俺より先にベルクートが立ち上がった。軽く腕を回している。おいおい、やる気か?別に助けてもらわなくてもこっちは職業軍人だ。大丈夫だっての。
そう思っていると、男どもは当然ながら立ち上がったベルクートを最初の標的にして襲いかかってきた。
ベルクートは思った以上に喧嘩慣れしていた。さすがに海賊も出入りするような場末の店の常連というべきか、卓上の皿を投げたり、瓶で相手の頭を殴ったりと、酒場らしい攻撃も実に手慣れている。
やばくなったら助けるつもりだったが、全く出る幕がなかった。

「俺の連れに手を出す気ならもっと腕を磨いてくるんだな。酒の肴にもならねえ弱さだ」

そう告げると、倒れている男共の懐から財布を抜き出している。
おいおい!窃盗する気か?

「店への迷惑料を貰っておくぞ。文句があるなら弱い自分を恨むんだな」

フンと笑い、やや怯えている店員に金を渡して謝罪している。鮮やかだ。実に鮮やかだ。こういった事態に場慣れしていることが伺える。
しかし、何なんだ、この豹変は。今は仕事の場じゃねえだろ?
それとも喧嘩になるとこうなるってのか?

「いや、酒を一定以上飲むとこうなるんだ」

酒癖かよ!どういう酒癖なんだ、こいつは!聞いたこともねえぞ!

「シード、怪我はなかったか?」

笑みながら顔を覗き込まれる。近いっての。別人だ、まるで別人だ。口説かれている気分だ。
お前、見合いの前に酒を飲んでいたら、破談にならずに済んでたんじゃねえのか?

「まさか見合いの場に酒臭い状態で行けるわけがないだろ。それにどうせボロがでる」

それもそうか。

「それにおかげでシードに会えた。こういうのも悪くないと思ってる」

ちょっと照れくさそうに言われた。
なんだ、なんだ、この展開は!!いや、悪くねえけどよ!!どうすりゃいいんだ、一体!!
内心、ドキドキしていると、ベルクートはいきなり倒れた。やはりウォッカを一気に飲んだのがやばかったらしい。
おーい、店員、水くれ、水っ!!
なんだかな…。
一気に拍子抜けしたが、まぁこれはこれでこいつらしいか。

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