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◆シードの見合い話 その12 (ベルクートの友人視点)


ベルクートの婚約者がやってきた。
俺らは街の酒場の奥で昼飯食ってたんだが、港の目の前の酒場だから、はっきりいってランク的には下だ。
広いばかりが取り柄の店内には魚の匂いが充満し、古樽を使った椅子に木製のぼろいテーブルがごちゃ混ぜに並んでいる。
けど新鮮な分、魚はうまいし、安いんで、庶民の俺らは普通に常連客だ。
ベルクートは育ちがいい癖にこういうところにも抵抗無く入ってくれるんで、誘うことも多い。
けどまさかベルクートのお相手さんがベルクートを探してここまでやってくるとは思わなかった。エリートだからこんなところ間違っても入らないって思うじゃねえか。

入ってきたお相手さんは私服姿だったから俺らも全然気づかなかった。気づいたのはお相手さんが酒に酔った海賊共に絡まれていたからだ。しかも相手はお相手さんより一回り以上体格のいい大男だった。一目見ただけで勝負は決まったなって思ったもんだ。
ところがどっこい。お相手さんは一撃で相手を伸して、面倒くさそうに奥までやってきた。どういう強さだ。動きがまったく見えなかったぞ。
慌てて海賊の仲間どもが数人がかりでお相手さんを倒そうとしたんだが、こいつがまた更に凄かった。何かが光ったかと思ったら数人まとめて壁の方に吹っ飛んだんだ。後で知ったんだが、お相手さんの武具は剣で重力を操る力が付随したものらしい。そいつを使ったんだそうだ。

圧倒的強さを見せて、周囲を唖然とさせたお相手さんは、平然とした顔で奥までやってきた。それで俺たちはようやく、そのものすごい人がベルクートのお相手さんだと知った。
ベルクートは大慌て。けどしどろもどろで相変わらず会話になってねえ。なっさけねえな。
けどお相手さんはそんなベルクートに慣れちまってるのか、気にならねえのか、平然としたままベルクートの食べかけの魚を奪って食べ、美味いと感動し、給仕のアニちゃんに追加までして喜ばせ、ベルクートに指輪のサイズについて苦情を告げ、仕事があるからと言って去っていった。

「やーん、クールっ。すっごく格好いい〜、シードさまって言うの?きゃ〜」

アニちゃんもすっかり惚れちゃってる。そうだろうな。汚い場末の酒場に文句一つ言わず、魚の味を褒めてくれて、おまけにめちゃくちゃ強い。けどそんな強さを見せびらかすことなく、謙虚っつーか、自然体。いい男だよなぁ、俺らも惚れたぐらいだ。
しかし、しっかりしろよ、ベルクート。指輪のサイズ間違ったって、アホか!見惚れて、惚れ直してる場合じゃねえだろ。情けなさ過ぎだぞ、お前。
あんな立派な素晴らしい方がお相手だってのに、ご挨拶一つ満足にできずにどうするよ?結婚前に別れ切り出されてもおかしくねえぞ?ちゃんとつなぎ止めておけっての。

<END>

港町にもシードファンができました。
他人視点のシード像は書いててちょっと新鮮でした。