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◆シードの見合い話 その10 (ベルクートの友人視点)


ベルクートはいい男だ。
艶のある褐色の髪は海の潮風にもさほどやられることなく、さらさらで、青い目も良く晴れた空みたいに綺麗な青だ。
あくのないさっぱりした顔立ちでずば抜けた美形ってわけじゃないが、大抵のヤツならいい男だっていう顔だ。
腕っ節も強くて、明るく物わかりのいい性格で、貴族の生まれなのに場末の酒場にも気兼ねなくやってくる。そのため、海の荒くれ者たちからも気さくで良いヤツだと慕われている。
当然女性からの人気も高い。道を歩いていたり、酒場に入ったりすると色気たっぷりの秋波を貰っている。

…が、そんなベルクートにも大きな欠点がある。

変な人見知り癖があり、仕事がらみじゃねえと極度に緊張しちまうってことだ。
特に顔の良いヤツとかその手の付き合いを含めた誘いをかけられると酷い。かんっぺきに固まっちまって、会話にすらならねえ有様だ。
さすがにミスティアのご領主様もこれはやばいと思ったんだろう。ギランガの次期頭領様が下手な男や女につかまりでもしたら大変だからな。ベルクートは見合いをすることになった。
ところがベルクートの人見知りは予想以上に酷かったらしい。
ミスティア家が用意した縁談が見事に破談の連続。
さすがのベルクートも度重なる破談にすっかり自信を無くしちまったらしく、交際に関しちゃすっかり落ち込んでしまった。
そりゃ…なぁ。こっちとしても励ましの言葉も思いつかない。二十回を越える破談じゃどんな言葉も空々しすぎて慰めにならねえだろうし。

「なんだって?24回目の破談?」
「らしい。しかも相手は大乗り気だったらしいんだ。会うまでは」
「毎回そのパターンだよな」

おい、悪友共。もうちょっと声潜めろよ。ベルクートに聞こえちまうじゃないか。
けどその通りなんだよな。ベルクートは話だけ聞けばかなりの好条件だから、相手は乗り気なんだ。ところが実際に会ってすぐにぶち壊れるってのが毎回のパターンだ。
ベルクート自身に問題があるって丸わかりの破談パターンなだけに慰めようがない。

「今度はコウさまがご用意してくださったらしい……アルディン様のお知り合いでもあられるそうだ……」

力なく告げるベルクートの顔は気の毒なぐらい青ざめている。
げ、コウさまかよ。とうとう次期ご領主のコウさままで、縁談をご用意くださったとは!

「アルディン様のお知り合いってことは軍関係者か?」
「あぁ。アルディン様の右腕であられる副将軍殿だそうだ」

副将軍!!
アルディン様の右腕ってことは近衛副将軍かよ!こりゃまたとんでもねえ方がでてきたものだな。

「うあ〜、軍人で副将軍ってのは筋肉隆々の大男じゃねえか?」
「だよなぁ。近衛軍ってのはエリート揃いだしなぁ」
「俺、アルディン様の側近みたことあるけど、中年のガタイのいいおっさんだったぞ」
「ハゲてたよな」
「マジかよ!」

悪友共、あんまり言うなよ、ベルクートが気の毒じゃないか。
…が、落ち込みきっているベルクートは怒ることなく呟いた。

「別におっさんでもじいさんでも中年でも大男でもいい。俺なんかと結婚してくださる心広い方なら」

おいおいおい……早まるなよベルクート。
俺は友であるお前の妻がむさ苦しいオヤジなんて嫌だぞ!

「だが、コウさまのご紹介だ。頑張る」

そうか。それじゃせめて相手がいい人であることを祈っててやるよ。

「……っつーか、また破談になることを祈ってた方がいいんじゃねえ?」

だからあんまり酷いこと言うなっての、悪友共。

「アタシ、ベルクートには偉い方と結婚するの諦めてほしいんだけどなぁ」

アニちゃん、そりゃ殆どのヤツがそう思ってると思うぜ。
けどミスティア家が許さねえんだからしょうがねえじゃん。

「そーなんだけどさぁ」

庶民からの人気が高いからな、ベルクートは。そう思ってるヤツはホント多いだろうなあ。
けど、マジでおっさんを嫁にもらうことにならなきゃいいがなぁ。

<END>

見合い前のできごと。
ベルクートの友人たちも心配していたという話です。