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◆シードの見合い話 その8(シード視点)


手紙に花が挟まっていた。
一応気を使ってくれたんだろうか。花に気を使うぐらいなら内容に気を使えっての。なんだこりゃ、色気も素っ気もねえ。『港へ行ってきた』だの『コーヒーを飲んだ。美味しかった』だの、箇条書きの日記かよって感じだ。
俺だって似たりよったりかもしれねえが、もうちょっと内容には気を使ってるぜ。コーヒーを飲んだことを書くならどこの店のコーヒーが美味いかとか好きな銘柄とかぐらい、書かねえとな。互いのこともわかりゃしねえ。

次の手紙にも花が挟まっていた。
今度は見落としそうになるぐらい小さな花だ。雑草かよ?小さすぎて愛でる気にもなれねえ。
だから花より手紙の内容に気を使えっての。

そんなやりとりが何度か続いた頃、アルディンに聖アリアドナの祭りの話題をされた。そういやそんな時期か。毎年部下どもに軍内での花束渡し禁止令を愚痴られるんだよな。しょうがねえだろ。モテねえ俺のようなヤツはともかく、顔のいいアルディンとか第二軍のフェルナン副将軍あたりは大量になるだろうからな。禁止してねえときりがねえっての。
あ、そういやベルクートは軍内じゃねえから受け渡しできるのか。

「シード、聞いているのか?」

あ、悪い、聞いてなかった。

「全く。…だから、祭りの時期は入手しにくくなるから、今の内に香水を買おうと思うんだがシードはいらないのか?」

俺は香水をつける趣味はねえっての。知ってるだろ?

「文にも使わないのか?」

何だって?

「花や香りに想いを忍ばせたりするんだ。封を開けた瞬間に香るようにな。貴族用の便せんには最初から素材に使用されていたりするんだが、そうでない場合は後から含ませたりするんだ」

政略婚が多かったり、遠距離恋愛が当たり前の上級階級では一般的なことらしい。初めて知ったぞ、俺は!!そういう大切なことは最初から教えやがれっ。

「花には花言葉があるからな。花を忍ばせるときは意味を調べてからにするものだ」

花言葉!?匂いだけじゃねえのかよっ!?
どおりで小さすぎたり、変な色の花だったりしたんだな。
っつーか、分かりづれえっ!!花だの香りだのより内容を大事にしやがれっ。

<END>

相変わらず意思の疎通がなかなかない二人。アドバイス係がアドバイス係(アルディン)なので遅々として進まず。
そして手紙の内容も似たり寄ったりで50歩100歩。
亀並のスピードで交際は続きます。