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◆シードの見合い話 その5 (シード視点)


いわゆる遠距離恋愛ってヤツだから、会う時は王都とミスティアの間にある街なんかで会ったりして、半年が経った。
もう半年というべきか、まだ半年というべきか。まぁ会った数は片手の数ぐらいしかねえんだが。

っつーか、そもそもこれは『恋愛』なのか?いや、見合いしたわけだから、こうやって会ってるってことは一応『交際』っつーか『お付き合い』をしているわけだよな!?
当人が疑問を持っている時点で交際になってるのかどうか相当怪しいけどよ!

んなことを思ってると相変わらず緊張しまくりの相手はそわそわと落ち着かない様子で周囲を見ている。不審者っぽいからやめろっての。

俺らが入っているカフェは中の上ってところか、貴族が入ってもとりあえずおかしくはない程度のランクの店だ。だが一般市民にはちょっと敷居が高い。奮発して入るって感じか。
そんな質の良い店に入っても違和感ない上質の服を着こなしている向かいの男は、俺の目から見てもレベルの高い男だ。飲み物を手にする仕草や宝石の埋め込まれた懐中時計を取り出す動作など、すべてが堂に入っていて違和感がない。

……これであがり症ってのか?極度の緊張癖さえなきゃ完璧なんだけどよ。

今日も会話が続かない。さてどーしたものかな。いいかげん、時間潰すのに慣れてきたぞ。
そんなことを思っているとそろそろ出ようと言われた。退屈していたところだから好都合だ。

スッと手を出される。思わずその手に手を乗せると自然な動作で椅子から立ち上がらされ、開いた席にかけていたコートを肩にかけられた。
そんなことされたことなかったから驚いてると、ベルクートは全く疑問に感じていないようだ。そういうマナーっつーか、エスコートが自然と身に付いているらしい。

そういやこいつ、道歩く時も馬が通っていく側を歩いているよな。
騎士の俺を庇う必要なんざ全くないってのに、そういう行動に違和感を持っていないのか。
俺が気づいていなかっただけで、こいつはちゃんと俺を守り、交際しているつもりなんだろう。なんか負けた気分だ。


<END>

シード、ちょっと自覚を持つの巻。
まだまだチマチマと続く…かも!?