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◆リオ・グラーナ(3)


本部へ着くと友人フェルナンが先についていた。

「フェルナン。早馬の情報は聞いたか?」

亜麻色の髪をした美男子の友人は軽く頷き返す。

「ゼイガル砦からの早馬だろう?予想通りだよ、ガルバドスが出てきた」
「西の大国か!」
「隣接するグラスラード国も不穏な動きを見せている。大きな闘いになるかもしれないね」
「そうか…グラスラードまで…」

そうなると出動するのは第二軍だけじゃないかもしれないとサフィンは思った。近衛軍とはいえ、一つの軍だけで抑えきれる状況ではないだろう。
しかし北にも大国がある。全軍をだしてしまうと足下を掬われる可能性がある。果たして出動するのが何軍になるのか、サフィンは判らなかった。
それから日が落ちるまで本部にいたが、新しい情報は入ってこなかった。

「一旦帰るか。いつでも出動できるように準備を整えておかないといけないしね」
「あぁ、そうだな」

サフィンはフェルナンと別れて、一旦帰路についた。



「早馬が着いたらしいじゃないの。闘いになるのかい?」
母は不安げな様子だ。サフィンが不在の間にいろいろ噂を聞いたらしい。サフィンが家に帰るなり、出征準備を始めたことも気がかりなのだろう。

「まだ判らない」

サフィンは曖昧に答えた。実際のところ、出征の可能性は高いだろうと思っている。
西の大国ガルバドスは好戦的な国だ。近年、急速に力をつけて周囲の国々を吸収して大国の仲間入りを果たした。古き国々からは『成り上がり国』と揶揄されているが、事実、歴史は浅い国だ。

(だが、馬鹿にはできない…)

親友フェルナンも言っていたが、ガルバドスは今とても勢いがある国だ。『成り上がり国』と揶揄されているが、裏を返せば『成り上がることができた優秀な国』なのだ。他国を吸収してのし上がることは簡単ではない。国同士の存亡をかけた闘いを経て、勝ち上がってきた優秀な国なのだ。
今、ガルバドスは三大国の一つと言われている。ついにここまでのし上がってきたのだ。敵としては十分優秀な国だ。

(厳しい闘いになりそうだな…)

いつしか自分の考えに耽っていたサフィンは家族が不安そうに見つめていることに気づかなかった。