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◆砕けぬ夢を見る(6)

隊をまとめて王都へ戻ったシードは同僚ルーカスと再会した。ルーカスは黒髪黒目、長身で生真面目そうな好青年である。第二軍と行動をしていたルーカスはシードと再会し、大喜びであった。

「お前は我が隊の命の恩人だ!ありがとう!!」

確かに助けたのは確かだ。しかしシードとしては当たり前のことをしただけのつもりだった。

「いや、お互い様だろ、気にするな」

戦場で助けたり助けられたりは当たり前だ。ゆえにシードとしては至って当たり前のことを答えたつもりだった。しかしその言葉は相手に謙遜したと取られたらしい。感動の眼差しを向けられ、シードは少し驚いた。

「謙虚なヤツだな!!その精神、素晴らしく好ましいぞ」
「そ、そうかよ…」
「うむ、騎士の鏡だ。私もそのようにありたいものだ。見習わせてもらう!」

ルーカスはものすごく真面目で素直な性格らしい。しきりに一人で納得したように頷いている。そういったタイプに免疫がなかった皮肉屋のシードは驚くと共に困った。ここまで素直に受け止められたらかえってやりづらい。

「そ、そうかよ…」

まして己を騎士の鏡などと思ったこともないシードは困惑気味に頷き返した。

「お互い騎士として頑張ろう!」

熱く手を握りしめられ、シードは顔を引きつらせた。

(だからなんで俺の周辺にはこういうヤツらばっかりなんだ!)

情熱的な元部下たちを思い出し、似たような状況になったと思うシードだった。


+++


王都へ戻って数日後、人事発表があった。
新たな第五軍将軍はアルディンとなり、副将軍にはシードが選ばれた。本来副将軍は二名まで可能だが、一人でも可とされている。故に特に問題はない。
シードは後方支援ばかりで目立った武勲がない己が副将軍になるとは思ってもいなかったので驚いた。しかし他の大隊長全員と第二軍将軍からの推薦だったという。他からも反対はなかったため、すんなり決まったということだった。

(まぁいいけどよ……けどアルディンとか…)

合わないと思う相手と第五軍をまとめなければならないと知り、シードはいささかうんざりした。副将軍になっても苦労は減りそうにない。
そのアルディンは早速第二軍将軍と揉めているようだ。就任早々、犬猿の仲と噂されている。戦場では助けられたというのに、一体何が気にくわないのか知らないが、最初からけんか腰という有様だ。

(寝言で名を呼んでいた癖によ)

別に好いていようが気にくわなかろうが構わないが、仕事には持ち込まないでほしいと思うシードだ。巻き込まれるのは敵わない。
それでなくてもやることは山積みなのだ。戦いで第五軍は激減した。新たな軍の立て直しはトップであるアルディンとシードにかかっている。ハッキリ言って他軍と揉めている場合ではない。減った分だけ補強もしなくてはならない。むしろ頭を下げて他軍からよき騎士をもらってこなければならない立場なのだ。

(とりあえず説得するか)

プライド高い貴族様はこれだからやりづらいと思いつつ、シードは書類を手にアルディンがいるであろう第五軍執務室へ向かった。