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◆白夜の谷(11)


そうして、対ガルバドス戦は始まった。
紫竜ドゥルーガの読みは当たり、ガルバドス国側は隊を二つに分け、本隊を南の街道を使って侵略してきた。
青竜ディンガと使い手は谷の方にいるという。
ここまでは完全にウェリスタ国側の予測通りだ。

アスワド大隊以外はニルオスの麾下に入って戦うことになった。
つまり第一軍のほとんどの隊がニルオスの指揮を受けることとなったのだ。
スティールとは別の大隊に所属しているラーディンは飛んできた矢を土の防御陣で防いだ。

「守りは任せろ!!行け!!」
「はいっ!!」

ラーディンが防御に徹しているおかげで周囲が余裕を持って動くことが出来る。
ラーディンはうまく周囲の騎士たちと連携して効率よく戦っていた。

戦場にリリィーンと鈴が鳴るような音が響く。

『報告。谷に青竜ディンガとその使い手を確認。側近シグルドとアグレスの姿はない。そちらへ回っている可能性があるので注意せよ』

音の後に響いたのは今回、後方支援部隊となり、北の谷との繋ぎをしている第一軍の大隊長の一人アズウの声だ。注意を促すためわざと広範囲に響くように伝達しているのだろう。
その声に応じるように合成印技の風華陣(ライ・ガ)が飛んできた。バチバチと火花を立てながら移動する竜巻はシグルドとアグレスの得意技として知られている。

「チッ!!やっぱりこっちの戦いに来ていたか!!」
「油断するな!!恐らくレンディ以外の戦力はこちらに集中しているぞ!!」

声が飛び交う中、大隊長位の人々から一時退くように指示がでた。
ラーディンが指示に従いつつ、前方を見ると大隊長のコーザとフィネスが剣を交差させるのが見えた。

「風華陣(ライ・ガ)!!」

風の上級印を持つコーザと炎の上級印を持つフィネスで合成印技を発動させた。
ラーディンは慌てて防御術を発動させた。距離が近すぎるためだ。
風華陣(ライ・ガ)は近衛第一軍の本隊が直撃を受けるギリギリのところで相殺されて消滅した。
消滅時のエネルギーで強い突風が飛んできたが、防御術を発動していたおかげで吹き飛ばされずに済んだ。

「反撃するぞ!!カイザード、ラグディス、行けるか!?」

コーザの声に二人が頷く。

「御意!!」
「行けます!!」

カイザードとラグディスの二人が印を輝かせる。
士官学校時代から無二の親友として知られる二人はさきほどコーザとフィネスが見せたものと同じ合成印技を発動させた。

「風華陣(ライ・ガ)!!」

さきほどの風華陣(ライ・ガ)ほど威力はないが、不慣れな発動にしては十分な威力を持つ合成印技がバチバチと火花を立てながら敵陣へと飛んでいく。
シグルドとアグレスがいるのであれば打ち消されるだろう。しかし、こちらにも上級印技の使い手がいるのだと知らしめるには十分だ。

戦いは序盤から激しい印の投げ合いとなった。