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◆山羊泥棒とハーブ入りパンの話(2)


足場を作るのが土の印持ち。その後は退路を守るための補助役となる。
突入するのは風と炎の印使い。ただし、アジトは洞窟となっている可能性があるため、大技は避け、出来るだけ普通の武具で戦うこと。
家畜は極力守ることと言ったことが話し合われた。
スティールは隊長として先頭を行かねばならないだろうと思っていたが、オルナンに却下された。

「スティール、お前は土の印の係だ」
「え?」
「剣術が苦手なお前が先陣を切ってどうする。それに土の印使いが少ないからな、ラーディンたちと頑張ってくれ」
「わ、判りました」

硬い岩肌に苦労しつつ、階段を作り上げていく。柔らかな粘土層だったら楽だったのかもしれないが、さすがにそう都合良くはいかない。

「おい、ナナメになってるぞ」
「あ、そっか。ええと……」
「出来が悪い。いいか、階段というのは、もっと均等な幅と高さで作るべきであり、理想的な階段とは……」
「ごめん、ドゥルーガ。階段の話はまた今度聞くよ」

今はそれどころではない、と話を中断させたスティールの腕からドゥルーガが飛び出す。
小手状態から小竜状態となったドゥルーガは、垂直に近い岩肌に重力を無視するかのように留まり、ポンと小さな足で岩肌を叩いた。
その途端、岩肌から連続で階段が飛び出した。
一段一段作るのに苦労していたスティールたちを唖然とさせるスピードで、崖の上まで見事な階段を作り上げたドゥルーガは、スティールの肩へ留まりつつ、己が作り上げた階段を見上げた。

「判ったか?階段というのは均等な幅、均等な高さでなくてはいけないんだぞ。歩く人間が躓かないように、なるべく足腰の負担にならないように考えて作らねばならないものだ。古い時代より、階段というのは人々の生活になくてはならないものであり、その歴史とは…」
「ごめん、ドゥルーガ。また今度ね。階段を作ってくれてありがとう」
「せっかくよき階段の見本を作ったというのに!」
「うん、使いやすそうだね」
「そうだろう?幅も高さも理想的な階段だからな」

機嫌を損ねていた小竜は素直な感想に少し機嫌を直したらしく、大人しくなった。

「この堅い岩肌にこのスピードで作るって……すげえパワーだな、ドゥルーガは。うはぁ…自信無くす……」

肩を落とすラーディンに同感だと思いつつ、スティールは突入部隊が登っていくのを見た。
彼らは恐る恐る階段を上っている。

「うわ、高え……落ちたら即死だな」
「せめて手摺りが欲しいところだな、これは……」

急な崖を階段で上っているようなものだ。確かに怖いだろう。

「落ちたら受け止めてくれよ〜、ジョスラン!」
「まさか!避けますよ、潰されるじゃないですか」
「ジョスラン、ひどいよ〜っ!」

軽口を叩きつつ登っているのは、カナックだ。
中隊では補給を担当している人物で、くるくるとした癖の強い茶色の髪を首の後ろで束ね、黒い目をしている。30歳前後の彼は軽い性格だが、腕の良い騎士である。
カナックに応じているのはジョスラン。褐色の髪に青い瞳をした、なかなか容姿のよい彼は、土の印使いだ。ラーディンやスティールたちと同じく、今は崖の下から突入組を見守っている。

「反重力があるんで、死にはしませんよ。安心して登ってください!」

己の武具である盾を構えつつ、ラーディンが叫ぶ。ラーディンの盾は反重力を発動させることができるのだ。本来は防御用だが、落ちてきた人物の即死をさけるのには使えるだろう。
オオッと、登っているメンバーが喜んでいるのが見える。

「えーと……俺も何かできるかなぁ…」
「やめておけ。お前が得意とするのは大技ばかりだ。コントロールを間違ったら、アジトごと、お前の部下どもも埋もれてしまうだろう」

手を出さないのが一番だとドゥルーガに指摘され、スティールは少し凹んだ。

(俺、何の役にも立てていないかも……)

「待つ間、餌に少し草を刈っておこうかなぁ」

何の力にもなれないのであれば、せめてそれぐらいはやっておきたい。
家畜が無事だといいな、とスティールは思った。