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◆ディガンダの黒犬(13)

時間は少し遡る。
やや遅れてロディールの元へ向かったセシャンは、浴室の近くに先客がいることに気付いた。
相手は背を向けているが見間違えるはずがない。イルファーンだ。
わざと足音を消さずに近づいていき、前回と同じように背後から抱きしめる。
腕が立つ相手だ。気付いていなかったはずはないが、相手は抗わなかった。そのことによってセシャンは相手が何を望んでいるかに気付いた。
浴室から漏れ聞こえてくる嬌声を聞きつつ、セシャンは相手の服の裾を緩めていった。

イルファーンはいつもロディールを見る時だけ、眼差しに熱が籠もる。
彼がここにいたのは、行為を期待してだろう。セシャンとイルファーンはロディールを介してしか接触がない。同居はしているが、ロディールが間にいなければ何の繋がりもない希薄な関係だ。そんな関係であるのにイルファーンがセシャンに触れることを許すのは、身代わりだからだろう。

(でも、それでいい)

セシャンにしてみれば、代理だろうと気に入った相手に触れられるのだから不満はない。
そんな風にでもきっかけを掴まねば、イルファーンのようなタイプには触れられないと判っている。
すでに少し昂ぶっていた性器を緩く擦っていくと熱い吐息が漏れた。

「期待していたようですね。声を聞いていて、よくなったのですか?もう熱いですね」

耳元で囁くとイルファーンの目尻が羞恥に赤く染まった。自覚はあったのか、顔を逸らそうとするが、後ろから抱きついている状態のセシャンにはあまり意味がない動きだ。
ベルト代わりの腰紐を緩めて、下着ごと下衣を落とす。
下半身がむき出しになったことで不安になったのか、熱に濡れたイルファーンの表情が不安に揺れた。しかし、セシャンが昂ぶっている竿を下から撫で上げるように触れると、イルファーンは軽く息を飲んだ。
どうやら裏側に触れられることに弱いらしいと気付いたセシャンは同じ動きを繰り返していった。漏れる吐息が激しくなる。必死に声を殺しているようだが、無意識に揺れる腰の動きが相手の状態をハッキリとセシャンに伝えてきた。
こぼれ落ちる先走りを指に絡めてそっと後ろへ差し入れる頃にはイルファーンの体からも力が抜けていて、抵抗はなかった。
入り口を指先で開いて差し入れていく。
初めてここをこじ開けたのは昨日が最初だ。まだ慣れてはいないだろう。しかし、まだ一日しか経っていないだけに体は感触を覚えているはずだ。

「昨日、ここを使いましたね。貴方はとても美味しそうにここでくわえ込んでくれましたよ」

わざと思い出させるように囁くと、イルファーンはギクリと顔を強ばらせた。

「あれ……はっ……お前、がっ…」
「おや、こちらのせいにするのですか?」

昨日初めて知った奥にある弱い部分を指で突かれ、イルファーンは崩れ落ちそうになった。
それを止めてくれたのは後ろに立つ男だ。

「や、やめろ、そこはっ…」
「イイんでしょう?知ってますよ。昨日教えてくださいましたもんね。こうやって…」

指先で奥の部分を押すように触れられ、嬌声がでそうになり、イルファーンは慌てて己の手首を噛んだ。そうせねば到底声を我慢できそうになかった。

「うぅっ…」

「あぁ、ダメですよ。それじゃ怪我をしてしまいますよ」

差し出されたのは短刀だった。柔らかそうな質の良い皮のカバーが被せてある。

「何もないより、マシでしょう?手首と違って怪我もしませんからね」

抗議をする暇もなく、横向きに咥えさせられ、指よりも遙かに質量のあるもので貫かれる。
強さも感触も指とは比べものにならない強さで奥の弱い部分を突かれ、イルファーンは大きく仰け反った。

(センセイ……ロディールッ……)

すぐ側の浴室の中に好きな相手がいる。
けれども自分を実際に抱いているのは好きな相手ではない。
昨日は半ば無理矢理だった。けれど今日は自分から待っていた。ロディールが違う相手を抱いていると思えば耐えられなかった。ロディール自身、嫌そうな雰囲気ではなかったから尚更だ。

(ロディールッ…)

何故こんなことをしているのか。こんなことをしていても意味はないのに。そう思いつつも与えられる快楽は気持ちが良く、暗く落ち込みそうな思考を吹き飛ばしてくれる。
セシャンがこの行為をどう思っているのか判らない。ただの性欲処理のつもりかもしれない。セシャンを利用している自覚がある。しかし、最初に誘ってきたのは相手だからお互い様だろうと思っている。
背中越しの相手の体温を感じつつ、奥を貫かれて、イルファーンは脳裏が真っ白になる感覚を感じていた。