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◆ディガンダの黒犬(12)

無事勝利した敵船からお宝を奪い、船を沈めた後、戻ってきたロウタスはやはり血まみれだった。
違っていたのは、元の船に戻ってきた途端、ロディールに口づけてきたことだ。
あからさまな愛情表現に驚いたのはロディール本人や周囲の者たちだ。特にアガールとジョルジュは顔色を変えていた。
ジョルジュの反応に気付いたロディールは、うっすらとロウタスの意図に気付いた。ジョルジュへの牽制を含めた嫌がらせだろう。どうも色恋沙汰に巻き込まれたようだ。
困ったことになったなと思ったロディールはアガールの方には気付かなかった。

「風呂へ行こうぜ」

先日とは正反対にロウタスに腕を引かれて浴室へと連れられていく。
いつものようにロディールを追おうとしたセシャンは腕を掴まれて立ち止まった。

「なんです?」

護衛任務の邪魔をされるのは困る。顰め面で振り返ったセシャンは、分け前があると告げられ、眉を上げた。
敵船に勝利すれば分け前がもらえる。優先権は上から順番で、当然ながら幹部が先に欲しい物を貰える。
ロディールは最初から『薬品類か本』と船長に告げてあるらしく、誰も欲しがらないそれらを独占できている。

「お前さんは敵の副船長を倒したから今回は優先権がある」

どの男が副船長だったのだろうとセシャンは疑問に思った。彼にしてみれば襲いかかられたから倒しただけなのだ。
セシャンの場合、給与はミスティア家からでている。正規の騎士であるためなかなかの額だ。海賊船の報酬などもらえなくても構わないが、こういう場合、遠慮するよりもらった方がいいとセシャンは気付いていた。欲のなさすぎる男はかえって目立つためだ。

「では、本を頂きます」

暇つぶしにちょうどいい書物が欲しいと告げると、周囲にはお前さんもセンセと同じ人種かと呆れ顔をされた。文字を読めない者が多い海賊船で、本は不人気なのだ。

「まぁいいがな。好きなだけ持っていけ」

さほど量はなかったが、航海日誌や伝記、他地方の情勢を書いた本が幾冊かあったため、セシャンはそれらを受け取った。


++++++++++


ロウタスは弱い男が嫌いだ。そのため、戦えぬ男も嫌いだ。
ロディールは戦えない男だ。そのため最初は眼中になかった。
しかし、弱い男ではなかった。

関わるなと言っているのにいつも関わってくるお節介な男だ。強引でもある。なかなか自分勝手なところもあるとロウタスは思っている。
しかし、その手はいつもロウタスを助けてくれた。
船の仕事も要領よく覚え、新人船員としては十分な働きもしている。
頭もよく、文字の読み書きが得意なため、航海図や星を読めるようになるのも早かった。
戦闘の時も冷静で、我を失うことがない。新人は血を見て動けなくなったり、吐いたりすることも多いが、当人は戦闘終了と同時に怪我人を捕まえて治療していた。
さすがは医者だ。血には慣れきっているようだ。他の船員達は度胸があると感心していた。

『アガール……』

唯一の肉親である異父兄弟。彼がロディールを好いていることには気付いている。当人がおおっぴらにしていて隠しもしていないから、他の船員たちも知っているだろう。
そんな相手を自分が奪ってしまった。
アガールは何も言ってこない。しかし、物言いたげに視線を向けられたことには気付いている。いつも自分を助けてくれる優しい相手だ。恐らく遠慮してくれているのだろう。しかし惚れた相手を奪ってしまったのだ。言いたいことはたくさんあるのではないかと思う。いつも助けてくれる異父兄弟の好きな相手を奪ってしまった罪悪感はさすがのロウタスにもある。
けれど、惚れてしまった。
こいつならいいと思った。
戦えない男など冗談じゃないが、この男なら許せると思った。こいつの子なら産みたいと思った。
意外と強引で我が儘なところがある腕の良い医師を、唯一の兄弟にも渡したくないと思ってしまった。

「おい……」
「んっ…?」
「集中しろ。ヤってる時に気がそぞろになられるのはさすがに気分が悪い」

考え事をしていたことに気付かれてしまったようだ。
軽く睨み付けているロディールにロウタスは頷き返した。
確かにせっかくヤっているときに他に意識を逸らすなどするものではない。悩み事などあとにするべきだ。

「余裕があるようだな。遠慮無く行くぞ」

少し怒ったような声にギクリと身を震わせた瞬間、複数の『聖ガルヴァナの腕』が飛んできた。呆れたことにヤっている最中でさえ発動できるらしい。本当に呆れるほどの凄腕だ。
しかし、ロウタスにはたまったものではない。最奥を貫かれている状態で、弱い部分を腕で直接内部を刺激されてしまうのだ。
声を出すのは好きではない。当たり前だが己の嬌声など聞きたくはない。狭い船内、誰に聞かれてしまうか判らないではないか。
しかし、そんなことを考える余裕もすぐに吹き飛んだ。与えられる刺激にたまらず、声を抑える余裕がなくなる。正気を吹き飛ばすような快楽に我を忘れて身もだえた。

「やぁっ、あっ、ああああっ。はぁっ!!ロ、ディールッ!」

それまでの考え事や悩みも吹き飛ばされるような甘い刺激でさんざん啼かされ、そのまま意識を飛ばしてしまうロウタスであった。