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◆ディガンダの黒犬(10)

セシャンは浴室から一歩離れた通路の壁に背を付け、目を閉じていた。
性的な声が十分聞こえる距離だが彼は気にしていなかった。
セシャンは今までにも護衛任務を多く経験してきている。城の奥深くでの護衛も多く、閨のことを知りたくもないのに知ってしまうようなことも任務も多かった。そのため、どんな場面に遭遇しても動揺しないよう、精神が鍛えられている。
そこへ船上の方からイルファーンが降りてきた。
セシャンは内心、まずいな、と思った。
セシャンは護衛という任務柄、護衛対象の周囲にいる人物には気を配っている。護衛をする上で人間関係というのは重要な要素だからだ。
セシャンはイルファーンがロディールに好意を抱いていることに気付いていた。
どう止めようかと迷っているうちにイルファーンは目の前まで来ていた。

「センセイは?」

問うてきたイルファーンはすぐにその答えを自分で見つけたようだ。
ドア越しにかすかに聞こえる甘い官能に満ちた声はロウタスの声だ。
イルファーンが顔を強ばらせるのをセシャンはどうしようもなく間近で見ていた。

「邪魔をした…ようだな」

明らかな作り笑顔でそう言い、去っていこうとするイルファーンをセシャンは後ろから捕らえた。

「何を…っ」
「センセが好きなんでしょう?」

後ろから抱きつくように腕を回し、耳元で囁けば、イルファーンはギクリとしたように抗う動きを止めた。
相変わらず、浴室からは甘い声が漏れ聞こえてくる。
後ろから抱きつかれた状態でやんわりと股間を握られ、イルファーンは慌てた。
しかし、殆ど同じ体格の上、セシャンはしっかりとイルファーンの動きを拘束している。さすが騎士というべきか、体術には長けているようだ。見た目は優男なのに腕力があるらしく、抗おうにも抗えない。その間にもセシャンは容赦なく股間を服の上から撫でて刺激していく。同じ男だけあり、ツボを押さえた動きはイルファーンの意思に反して、しっかり昂ぶっていく。
イルファーンは何とかその手を止めようとしたが、刺激に気を取られ、手に力が入らなかった。

「慰めてあげますよ」
「いらな…いっ…。不要だっ」
「センセーはどんな風に彼を抱いているんでしょうね。あの反抗的な彼があんなに甘い声を出しているんだから、かなりうまいんでしょうね…」
「やめろ!そんなこといいから離せっ!」
「あまり大きな声を出すと中に聞こえますよ」

冷静な指摘にイルファーンは慌てた。さすがにこんなところをロディールたちには見られたくない。
抵抗が緩んだ隙をセシャンは見逃さなかった。腰を止めている布製のベルトの結び目を緩めて、手が直に忍び込んでくる。服越しではない生の刺激は強さが違う。すでに昂ぶっていた性器を直で撫でられ、イルファーンは崩れ落ちそうになった。

「や、めっ……」
「いいじゃないですか、楽しんでください。俺は楽しんでますよ。アンタも俺じゃなくてセンセに抱かれていると思って楽しめばいい」

浴室から甘い声が聞こえる。
ここは通路だ。浴室前の通路。奥には浴室しかないとはいえ、いつ誰が入ってきてもおかしくないような場所だ。
いつ誰に見られるか判らないという緊張感とすぐ側の浴室内にロディールがいるという事実。そして漏れ聞こえてくる官能に満ちた声にイルファーンは混乱した。
様々な要素が否応なしにイルファーンの性感を高めていく。その間にセシャンは体液で濡れた指を後ろへと押し込んだ。
イルファーンは軽い痛みを感じたが、状況による緊張やすでに高まっていた快楽であまり気に留めなかった。
ロディールにバレるかもしれない。誰か来るかもしれない。
そんな恐怖と羞恥と高められた快楽ですっかり混乱しきっていたのである。
それでも体の方はしっかりと反応し、後ろからの刺激も快楽に転じていく。
すでに体からは力が抜けて、後ろからセシャンに支えられている状態であった。

「気持ちいいですか?」

甘く問われ、否定することもできず、イルファーンは必死に頷いた。

「イキたいですか?」
「……ッ」

かろうじて残っていた理性が肯定するのを躊躇わせた。
しかし、動いていた指の動きが止まる。
答えなければそのままだと気付いたイルファーンは唇を噛んだ。

「そろそろセンセーたちも上がる頃かな」

今更ながらに状況を思いだし、イルファーンは青ざめた。
このまま放り出されてはどうすることもできない。体は完全に昂ぶっていて、解放を欲している。

「ねえ……欲しいですか?」
「…ほ、しい…っ」
「イキたいですか?」
「イキたい…」
「よくできました。ご褒美をあげましょう」

望みどおり、貫かれ、さんざん焦らされた体を解放される。
しかし、イルファーンはロディールたちに気付かれぬよう声を殺すのに精一杯であった。