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◆ディガンダの黒犬(8)

海賊船ディガンダは、一度航海へ出ると、一ヶ月は戻ってこない。近海では仕事をしないのだ。
小さな島には不釣り合いなほど大きく立派な船だが、島を守るために始まった海賊業だ。
収入の大部分を船のために使っているらしい。
島長に『若いもんは船に乗るものだ』という聞き覚えある台詞で許可を得たロディールは、結局、海賊船に乗ることになった。
一応、『マリエン島の住民を看るため』という名目のためである。
当然ながら護衛のセシャンも一緒である。

「海賊船に乗ることがあるなんて思いもしませんでしたよ、俺は」

ぼやきつつも仕事は仕事として割り切っているのか、強く反対することなくあっさりとついてきた。

「言っておくが、俺は全く戦えないからな。俺を乗せるからにはちゃんと俺を守ってくれ」

ロディールは船に乗るに当たって、きっぱりと船長のダヴィードに宣言した。

「そこまで言い切る男も珍しいな。普通、多少は見栄を張って、自衛ぐらい出来ると言うものだが…」

呆れるダヴィードに対し、ロディールは顔をしかめた。

「命がかかった場で見栄を張ってどうする。その代わり、腕を落とされようが、足を落とされようが、治してやる。落とされた部位は持ち帰ってこい」
「うっわ、センセ、男前!!惚れ直しそうだよ!!」

アガールが目を輝かせる。
ロディールは驚いて振り返った。

「は?今の台詞のどこで惚れ直すんだ?」
「腕を落とされようが、足を落とされようが、治してやるってとこ!!」
「そうか……」

俺にとっては当たり前のことなんだがな、とロディールは呟いた。
その隣に座っているのはロウタスだ。ロディールが乗るということで乗船を認められたが、戦うことはロディールによって禁じられている。
しかし、島に残って療養するよりずっといいのか、機嫌は悪くない。

「さて、船内で寝るぞ、ロウタス」
「待て、俺は甲板がいい」
「却下だ。直射日光を浴び続けるのはよくない。船内で大人しく寝ろ」

嫌だと言っているだろうが、聞け!と叫ぶロウタスを無理矢理引きずっていく医者に、船長のダヴィードは苦笑し、アガールはうらやましげに見送った。

「いいなぁ、ロウタス……。センセに構ってもらってさ…」
「お前結構本気だろう、アガール?」
「そうだよ。かなり本気なんだけどさ…」

副船長のバジーリオのからかいが混ざった問いに真顔で答え、アガールはため息を吐いた。

「全然本気にしてもらえねえけどさ、本気なんだよ、俺は」