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◆ディガンダの黒犬(4)

翌朝、ロディールの家に来客があった。

「センセー、お久しぶりです」

客は島の住人ではなかった。
若い騎士姿の男にロディールは目を丸くした。

「セシャン。どうしてここに?アルドーからの使いか?」
「アルドー様からのご命令って意味ではその通りですが、使いではありません。センセの護衛という仕事で来ました」
「護衛!?ここでやっているのは治療と農作業だぞ。どこに護衛の必要があるんだ?」

褐色の髪に明るい緑の瞳をした騎士は肩をすくめた。
目立つ美形ではないが、十分容姿の良い男だ。

「それを判断するのは先生じゃありません、こちらの仕事です。センセは一応、『ミスティア領主の弟君』ですからね。護衛はいて当然です」
「なるほど。護衛の必要がなかったら帰るのか?」
「そうなるかもしれません」
「そうか。じゃあ、しばらくの間、よろしく頼む」

護衛が不要だと納得したら帰るだろうと思い、ロディールはそう告げた。
セシャンはニコリと笑った。

「こちらこそ」
「アルドーとアルディンは元気か?」
「ええ、公は相変わらずお忙しいようです。アルディン様もお元気ですよ」
「それはよかった」

こんな島に来ることになって大変だったなとロディールが言うと、セシャンは笑った。

「誰かが行かなきゃならないってことになった時、俺が志願したんですよ」
「何でまた…」

物好きなという意味を込めて問うと、セシャンはまたまた笑い出した。

「俺は裕福な下級貴族の末っ子なんですが、兄弟が多くて、両親は多忙だったため、ほとんど放っておかれるように育ちました。幼少の頃は乳母の家に預けられていたんですが、そこが田舎でしてね。田舎暮らしの方が楽しかったんですよ」
「ほう…」
「ミーディアの都も嫌いではありませんが、田舎暮らしも性に合っているのかもしれません。確かに何もない島ですが、気に入りましたよ。センセーはしっかり守ります」

ありがとう、と礼を言いつつも、任務である『ロディールを守る』という事態は起きることがあるのだろうかとロディールは疑問に思った。
その隣でセシャンは同居することになるイルファーンに挨拶をしている。どちらも穏やかそうな性格のため、特に問題はなさそうだ。

「ちょっと港へ行ってくる」
「気をつけてな」

船に用があると言って出ていたイルファーンの姿が見えなくなる頃、セシャンがぼそっと呟いた。

「彼、いい男ですねー」
「そうだな」

海の男らしく、よく日に焼けた肌にすらりとした長身のイルファーンは見目の良い男だ。
誠実で頼りがいのある人柄であることもあり、ロディールの元へくる若い女性達にも一番人気の独身男性だ。

「相手はいるんですか?」
「いや、聞いたことはないな」
「そうですか、フフフフ……。では、ちょっと屋内のチェックをしてきますね。特に鍵のチェックをしないと。俺は護衛ですからね、仕事頑張りますよ」

ロディールの護衛として来ているはずなのに、真っ先にイルファーンが使っている寝室の方へ向かうセシャンに、少々イルファーンの身が心配になるロディールであった。