港町ギランガは国内最大の貿易港を抱える東の拠点となる町だ。当然、人口も多い。
加えて、旅人や貿易商人たちが出入りしているため、住人以外の人口も常に抱えていることになる。
診療所へ行くために、ジャンニが描いてくれた判りづらい手書き地図を道ばたで眺めているうちに、昼食の時間帯になってしまった。
ロディールは諦めて、目についた酒場に入った。
魚の匂いと、魚を焼く煙でいっぱいの店内は、昼食時ということもあり、とても賑やかだった。
ロディールは慣れぬ魚の匂いを物珍しく思いつつ、カウンター席に座った。
カウンターの中で忙しく動き回っている店主は、ロディールと目が合うと、ニコリと笑った。
「今日は雑魚を焼いたものかシンラ魚のスープだね、どっちがいい?」
「内陸の出で慣れていない。食べやすい方がいいんだが」
「じゃあ雑魚にしな。小さくてよく焼けているから、頭からカリカリと食べられるよ」
「ありがとう、それで頼む。あと、ギランガの公立診療所を探しているんだが…」
手書き地図と共にチップを差し出しつつ問うと、店主は受け取りながら顔をしかめた。
「なんて判りづらい地図だ、目印に猫が描いてある!これじゃ、たどり着けるわけがないじゃないか。ギランガは猫だらけなのに!」
「俺もそう思う。午前中いっぱい探したんだが、結局判らなくてな…。一応、地図どおりに耳としっぽだけ赤毛のミケを探したんだが、一体どこにいるんだか……」
「アンタもそんなミケを探しているんじゃない。
診療所は、この店を出て、隣の道を北へ行き、赤い看板のある果物屋を右折したら見えてくると思うよ」
「ありがとう。大変判りやすくて助かる」
ロディールは食事を受け取りながら、店主に礼を告げた。
気さくな店主で食事もうまい。値段も手頃だ。
(なかなかいい店だな。店主の服の趣味だけはよくわからないが…)
店主は、大きな鍋を片手で持ち、勢いよく振り回して炒め物を作っている。その腕っ節はたくましく、大柄な体躯もあって、海の男らしい姿だ。
しかし、その身を包んでいるのはフリルたっぷりのエプロンドレスなのだからよく判らない。
(まぁいいか……飯の味と服装は関係がない)
そうしてロディールが食事を終えた頃、店へ初老の男が飛び込んできた。
「急患じゃー!急患じゃー!医者いないか、医者―っ!」
「ありゃ、ディガンダの…」
「関わり合いにならねえ方がいいな」
ひそひそ話が耳に入ってくる。どうも理由ありらしい。
しかし、怪我人を見捨てるわけにもいかず、ロディールは立ち上がった。
「俺は薬師だ。俺でよけりゃ…」
「すぐ来てくれ!!」
ロディールは勢いよく引っ張られていった。