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◆邪神ゲイエルウッドの贄(8)


一方、ガルバドス軍。

『シグルドとアグレスを貸してくれてありがとなー、レンディ。これ、お礼だ。中央通りの『ラ・タタン』に頼んだスイートポテトを使った特注ケーキなんだ』

迎えに行った時にそう告げて、やたらと豪華なケーキを差し出したアスターは、シグルドとアグレスに『ケーキで売られた』と思われてしまい、二人の機嫌を大きく損ねていた。
ただでさえ他軍に行くのは二人の好むところではないのだ。それがケーキで、などと言われればやる気が急下降するのは当然だ。
一方のレンディは顔を引きつらせていた。
彼はさほど甘い物は得意ではない。しかし特注ケーキだという甘そうなケーキをホールサイズで出されたのである。礼だと言われれば受け取らざるを得ない。脳裏ではどうやってホールサイズのケーキを消費しようか悩んでいた。

『あ、大丈夫だぜ。そう甘くないはずだ。何しろ芋だからな、芋』
『芋?』
『基本がスイートポテトだから自然な甘みになってるはずだ。甘さ控えめにしてくれと依頼もしておいた』

アスターがちゃんと気を使ってくれたと知り、レンディは笑顔になった。
滅多に見れぬ純粋な笑顔を見せたレンディを見て、シグルドとアグレスは嫉妬を倍増させた。

アスター軍の公舎にやってきた、あからさまにやる気がなさそうな二人の将に周囲も迷惑顔だった。
ところが、彼らを借りたアスターはその二人よりも上手だった。

「お前らの仕事内容はレンディに報告するからな。ちゃんと仕事しろよ」
「ざけんな!!」
「何言ってんだ。こっちだってシグルドとアグレスをよろしくって言われてるんだぞ。借りてる身なんだから報告するのは当然だろ〜」

それにどうせ聞かれるだろうし、とアスター。
悪意のない彼の台詞はレンディが絶対の二人にとって、恐ろしく効果を発揮した。

「…判った。やろう、シグルド」
「…チッ、しょうがねえな」

ちなみにレンディの方には交代として別の将が二人出向いている。行きたくないと嫌がられたのは言うまでもない。

「ありがとな!陽動だからな、派手に暴れてくれよ、二人とも」
「ああ」
「チッ、当然だ」

言われるまでもなく、憂さ晴らしもかねて暴れまくるつもりの二人であった。