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◆邪神ゲイエルウッドの贄(5)


(※軽い性描写有、注意)

若くて元気な体は性欲が溜まるのも早い。
現状、恋人がいない状態のカイザードは性的なことには潔癖な一面がある。
同僚たちに幾度か誘われたが、色町に行く気にもなれず、自室で慣れぬ自慰で性欲をはき出していた。

『先輩は胸が弱いですね』
『ほら、自分で触ってみてください』

甘く囁かれた言葉を思い出しつつ、手を動かして何とか精をはき出し、カイザードは目を細めた。
元々、自慰は苦手だ。自分の技術で達したというより、思い出に縋って、何とか達することができたという感じだ。
器用なスティールは性行為も上手く、いつもカイザードを満足させてくれた。指だけでカイザードを満足させてくれたことだって少なくない。
甘く愛を囁き、いつもカイザードを満足させてくれた後輩は今カイザードの側にいない。
今もそしてこれからも触れてはくれないのだ。

はき出した精で白く汚れた手を見つめる。
その手にぽつりと滴が落ちた。

「…スティール…っ」

運命の相手ではない。
ただそれだけの理由で後輩は離れていってしまった。
ならば、運命の相手でなければ後輩が自分から動くことはないのだろう。

「スティール…」

ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。
泣くのは嫌いだ。
捨てられて泣くなど冗談ではない。
それでも涙が止まらず、カイザードは唇をかんだ。
自分を捨てた後輩など見限ってやりたいと思うこともある。
自分だってもっと良い相手を見つけて幸せになってしまえばいい。新たな相手が女性ならば子供だって望めるではないか。
けれど、声を聞いたとき、立ち止まってしまう。
姿を見たとき、少し心が浮き立つ。
そして、もし、関係が戻れたらと考えたとき、胸が甘く疼き、喜びが広がるのだ。
結局は好きなのだと自分の心を思い知らされる瞬間だ。

運命の相手でなければスティールは自分から動いてくれない。

(ならばこっちから動くしかない…)

無理強いは無理だ。
カイザード自身、望むところではないし、スティールにはラーディンとフェルナンがいる。
スティールが望まぬ事を彼らが許すはずがない。二人に邪魔をされたらどうすることもできない。
ならば彼らより力を得る必要がある。

(スティールより上の地位。スティールに命じられる地位。理想はフェルナンと同じ将軍位になれれば……)

そうすれば恋人は無理でもかなり融通を利かせることができるだろう。スティールと長く時間を過ごせるような、そんな上下関係になれるかもしれない。
長く時間を共に過ごせるような職場関係になれば、またチャンスがあるかもしれない。
元々は恋人同士だったのだ、甘い関係にだって持ち込めるかもしれないではないか。

(首が欲しい。敵将の首が!)

出世に最適なのは確固たる功績だ。
それが敵将の首ならばいうまでもない。

(ガルバドス相手ならば、最低でも赤。理想は青か黒だ)

敵将相手にまともに戦っては殺される。
理想は一撃必殺だ。
あらゆる武術を磨く時間はない。それよりはただ一つの技に磨きをかけて、その技にかけた方がいいだろう。

(諦めてたまるか。絶対に出世してやる…!!)