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◆黒き火蜥蜴の鎚(17)


翌日、スティールはディンガル騎士団の運命の相手に会った。
彼も出陣していたらしく、野営地で会うことが出来た。
生真面目そうな短い黒髪の青年はスティールよりも少し年上だった。なかなか体格もいい。
ガイストと名乗った青年は、簡単に挨拶を終えるとスティールにきっぱり告げた。

「せっかく会えたのにこう申すのは心苦しいが、私は運命の相手を必要としていない。今後の接触はなしにしてもらいたい」

スティールは驚いた。初対面だというのにきっぱりと拒絶されたのだ。

「え、でも…」
「重ねてお願いする。特に身体的な接触は断る」
「……判りました」

そこまできつく言われれば受け入れざるを得ない。
ガイストは少し安堵した様子でスティールへ一礼すると、歩き去っていった。接触を拒んだ態度と同じく、見事な拒絶を言えなくもない態度であった。

「ドゥルーガ、彼は複数印だった?」
「いいや。炎だけだ」
「じゃあ彼の運命の相手は俺だけか……」
「それはどうかな」
「え?」
「俺にはヤツの運命は見えなかった。スティール、あいつと係わるのは賛成しかねるな。当人のいう通り、接触をしない方がいい」
「ええ?どういうこと!?」
「お前の炎の印は解放されている。わざわざあいつを抱く必要はない。向こうも拒んでいるんだから無理強いすることはあるまい」
「う、それはそうなんだけど……身体的接触を断るって……ようするに触るなってことだよね?」
「恋人でもいるんだろうよ」

確かにそれが一番あり得そうな話だ。年齢的にも自然だし、相手は容姿の良い人物だった。

「抱きたきゃラーディンでも抱いてやれ。ずっと別の男を抱いてるせいで妬かれてるぞ、お前」

連日、コーザと眠っているせいでラーディンが不機嫌なのは確かだ。

「う、しまった。今日は何とかしなきゃ…」

上官命令ということでなされるがままになっていたが、呑気に抱き枕になって、寂しがらせている場合じゃないと反省するスティールであった。