文字サイズ

◆黒き火蜥蜴の鎚(14)


ウェリスタ軍の戦いの中心はディンガル騎士団だ。半数の7000を出してきている。今回、近衛軍はディンガル騎士団の要請を受けて援軍を出すという形になっているのだ。
対するアスター軍も数千ほどか。黒将軍は一万兵を有するというので、総力戦で来たわけではないようだ。

「チッ、余裕だな。砦一個ぐらい全力じゃなくてもいいってわけか」
「そ、そうですね」

スティールはというと、全く余裕はなかった。副官のオルナンに補佐を受けつつ、必死で己の隊を守っていた。
そのため、他の中隊を見る余裕は全くなかったのだが、小竜はそんなことはなかったらしい。いつものように雷撃でスティールを守りつつ、ぽつりと呟いた。

「カイザードが重傷だな」
「ええ!!??」

ドゥルーガの言葉にゾッと背筋が震える。
慌てて周囲を見回すと、かなり遠目にカイザードが所属する隊が見えた。
周囲には倒れた騎士や兵の姿があり、かなりの被害が出ているようだ。
そして印を発動させようとしたコーザが吹き飛ばされるのが見えた。

「コーザ様!」
「印使いが多いというが、失敗だな。さっきから見る限り、印を発動させる前に攻撃を食らって、未発動に終わっている者が多い。敵はかなり白兵戦に長けているようだ。どれほど強靱な印であろうと発動させることができなければ意味がない」

隊の選択ミスだろうとドゥルーガ。
その声が聞こえたのだろう、オルナンが舌打ちしている。

「この状況で退くわけにはいかん。隊長、印使いを後方に回し、歩兵や剣技に強い奴らを前に出すぞ!」
「うん!…オルナン、隊をお願いします!」
「おいおい、どこに行くんだ?」
「コーザとカイザードを援護します!…ドゥルーガ!」
「しょうがねえな」

小手から小竜状態に変化したドゥルーガが先に飛んでいく。そして、トドメを刺されそうになっていたコーザを雷撃で防いだ。
カイザードは敵将と対峙していた。相手は赤いコートを羽織っている。怪我を負っているが、いい勝負をしているようだ。ラグディスの姿はない。戦場ではぐれたのだろうか。

(…距離がある。今なら行ける!!)

近距離ならば防がれてしまう。遠距離ならば。そして射程範囲が広い攻撃技ならば。
スティールが発動させようとしている技に気づいたのだろう。小竜がカイザードをチラッと見た後、コーザのマントの首元をくわえたのが見えた。

「合成印技が来るぜ?」

告げたカイザードにぎょっとした赤将軍の隙をカイザードは見逃さなかった。腹部を貫き、剣を手放すと大きく後方へ飛ぶ。

「炎蜘蛛陣(リ・ジンガ)!!」

スティールの合成印技は大地を砕いて炎を吹き上げ、射程範囲にいた敵将を大きく吹き飛ばした。