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◆黒き火蜥蜴の鎚(7)


時は少しさかのぼる。
セシリオは西の守護を担当するバール騎士団の騎士である。
彼は炎の上級印の持ち主であり、武術の腕も悪くはない。
性格は呑気なところがあるが、いつも冷静で堅実に仕事をこなすため、周囲の評判もよく、現在は中隊長だ。
将来は大隊長位につくだろうと言われている。
そんな彼は、最近騎士団にやってきた鍛冶師に武器を打ってもらった。
出来上がった剣は予想以上の物であり、彼は大変に満足した。

「曇りも歪みもない見事な刀身。切れ味も抜群で、印の増幅までしてくれる。素晴らしい剣だよ」

正直言ってここまで見事な剣が出来上がってくるとは思ってもいなかったセシリオである。
友人ダニエルも目を丸くして剣に魅入っている。

「すっげーな。よし、俺も頼もう」
「あぁ、そうするといい」
「これで武器の問題は解決しそうだな。後は印か。運命の相手が見つかればなぁ…お前みたいな上級印じゃなくても、そこそこ強化できそうなのになぁ」

ダニエルも炎の印を持っている。しかし通常印なのだ。

「運命の相手か。バール騎士団は運命の相手を持つ者が少ないよな。近衛はそこそこいると言うが、この差は何なんだろうね」
「才能の差じゃなきゃいいがなぁ」
「さすがにそれはあり得ないだろう」
「お前こそ、何で近衛に入らなかったんだ?落ちたのか?」

国内の騎士団において、近衛騎士団はトップを誇る。当然ながら合格率も低い。
そして上級印持ちは近衛に受かりやすい。印の強さは戦場において重要なのだ。

「親があまり遠くに行くなとうるさくてね。ここが一番近かったんだ」
「親が理由かよ」
「ただでさえ、騎士になるのを好んでいなかった。それ以上の説得は無理だったんだ」

あまり親不孝するのも気が咎めてね、とセシリオは苦笑しつつ説明した。

「だがガルバドスの動きが不穏なため、近衛に行かせておいた方がマシだったと言われているよ。実に今更だ。全く親なんて勝手なものだよ」
「あー、それじゃ運命の相手が近衛の騎士だったらいいな?運命の相手が他の騎士団だったら特例で移動が可能になるだろ」
「まぁね。だがせっかくここに慣れたのに、今更移動するのもね…。まぁそのときに考えるさ」

セシリオはそう言い、肩をすくめた。

後日、ダニエルはセシリオと同じ鍛冶師に武器を頼んだ。
騎士は危険職であり、命を守るための武具に金は惜しまないのだ。
結果、期待通りの素晴らしい剣を手にすることができた。
そうして、その鍛冶師の腕前は口コミによって静かに広まっていったのであった。