すべては後から気づいたこと。それが破綻の要因になったようにカイザードは感じる。
スティールを引き留めようとして、引き留めるためのものを何も持っていないことに気づいたのだ。
引き留めたい、けれどどうしたらいいのか判らない。
そのとき、自分は彼のことを何も知らないのだと初めて気づいた。
しかし、
『スティール。お前、俺のコーヒーの好み、知っているか?』
『濃いめのブラックでしょう?酸味がきいている方がお好きですよね』
彼はあっさりと答えた。カイザードの好みを当たり前のように知っていた。
けれど自分は知らないのだ。
スティールの好みの味など何も知らない。食事以外のことも何も知らない。問われても何一つ答えきれない。知ろうとしていなかった事実がここにある。
あっさりと切り捨てられるだけの現実が目の前に横たわっている。
愛される努力をしてきただろうか?
否。
自分は何一つとして努力してこなかったのだ。
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印の練習用に作られた、だだっ広い訓練場の一角で破壊音が響く。
「それぐらいにしておけ、カイザード」
やけになったように連日、真っ暗になるまで訓練をし続ける友を止めたのはラグディスだ。
彼も練習に付き合っていたが、最近のカイザードのがむしゃらなやり方には、付き合いきれないというのが本音だ。
しかし、放っておくと体をこわすまでやりかねないことが判っていたため、いつもぎりぎりまで付き合っていた。
「帰るぞ」
「……あぁ」
「ラグディス、俺は…諦める」
諦めよう。
そして自分も新たな相手と新たな道を歩むのだ。
元々前向きな性格をしているカイザードはそう決意した。
友人ラグディスは友の決意を聞き、首をかしげた。
「まぁお前が決めたのならそれでもいいが…いいのか?」
カイザードがスティールを好きであることを知るラグディスにはそう簡単に諦められることなのか疑問なのだろう。
「当たり前だ。仮に恋人を続けたとしても俺はラーディンやフェルナン様の下になっちまうんだ。運命の相手じゃなくなったからな」
プライドの高いカイザードにはこれが一番耐え難いことなのだ。
他の相手も愛される。それだけでも妥協せねば許せなかったことだというのに運命の相手ではなくなった今、ラーディンやフェルナンよりもスティールとの繋がりが弱くなってしまったのだ。
そしてスティールの方も『運命の相手』ということを重視している節が見られる。
仮に頑張って恋人同士に戻れたとしても、彼がカイザードを優先してくれる可能性は限りなく低いと思えるのだ。
オマケや情けで愛されるなど耐えられない。
「休暇をもらい、新しい相手に会ってくる」
「判った…」
そんなカイザードの姿にラグディスは小さくため息をついた。
無二の友はラグディスにとって、無理をして、意地を張っているようにしか見えなかったのである。