一方、近衛軍。
港町ギランガから戻った翌日、第一軍将軍フェルナンから執務室に呼び出されたコーザは、口頭で命令を受けた。
「カイザードをスティールの隊から移動させよ。それ以外の判断は君に任せる」
意味を問うようにフェルナンを見つめたコーザは、副将軍のシーインに書類を渡された。シーインは眼鏡をかけた医者のような雰囲気のある学者肌の騎士だ。
ザッと読んだその書類にはスティールとカイザードが相印の相手ではなかったことが書かれていた。
「……あの目はよくない。しばらくカイザードからは目を離さぬように」
しかめ面のフェルナンにそう言われ、コーザは言葉短く頷いた。
「はい」
最上位の相手とはいえ、人事に口出しされるのは面白くない。しかし、フェルナンにはカイザードに対し、何か引っかかるところがあったのだろう。引き離さねばならないだけの事情があるのであれば仕方がない。
(同じ隊にはラーディンもいるしな。一旦、引き離すってのは正解のような気もする。しかし、スティールのヤツも大変だ)
印と共に多彩な運命を背負っている部下に少しばかり同情するコーザであった。