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◆奉剣の舞(8)


剣舞披露の儀が行われる日がやってきた。
休日に行われるため、士官学校生も見に行こうと思えば行ける。
スティールはカイザードが出るため、会場へ向かった。友人であるラーディンとティアンも一緒だ。

「俺、初めて見るよ」
「ホント!?去年まで一度も見に来なかったの?スティール」
「うん」

全く興味がなかった上、自分には縁がないと思いこんでいたのだ。
今年もカイザードが選ばれていなかったら見に来なかっただろうと思うスティールである。

王宮前の広場に設けられた会場は満員だった。
最前列には会場に不正に入る者がいないように、近衛騎士がいる。
剣舞だけでなく、神殿の巫女たちの奉納の舞も行われるため、そちらが目当てで来ている者たちもいる。
遠く離れた席には王族の姿が小さく見える。周囲には王宮護衛の騎士たちが集まっているため、近づくことは出来ない。

「あ、始まったよ」

代表として選ばれた士官学校生が披露する剣舞は毎年人気の一つのため、ワッと歓声が上がった。
見慣れた制服も白いマントを羽織り、胸に花を飾っているため、いつになく華やかに見える。
素早く正確な剣の舞は実に鮮やかで見事だ。難しい技を決めるたびに周囲から歓声が上がる。

「すごぉい!」
「かっこいいわね。特に中央の赤と青の髪の人たち、すごく格好いいっ」
「うん、今年の代表の人たち、すごく格好いいわねっ」

近くにいる少女たちが目を輝かせて見ている。
ちらほらと聞こえる声からも紅蒼の二人が注目を浴びているのが判る。
元から人気の高い二人だが、それは士官学校の外に出ても変わらないらしい。抜群の容姿の良さはこういう場面で強く発揮されるようだ。
中央の一番目立つところで舞っている二人はひときわ鮮やかだ。
スティールもカイザードとラグディスの姿に魅入られた。

「…絶対に俺も来年出てやる」

舞台に魅入っているスティールの様子を見て、ラーディンが呟く。
スティールは、俺には無理だろうなと思いつつも憧れた。剣技に興味がないスティールでも魅入らずにいられない見事な剣舞だったからだ。

「終わったね、先輩たちのところへ行こう、スティール」
「行けるの?」
「会場脇にある控え室には入れないけど、終わったら一度学校へ戻られるはずだから、そのときに会えばいいよ」

なるほど、と納得しかけたとき、前の方の人並みが割れた。
最前列から歩いてきたのは近衛騎士数人であった。人並みが割れた理由はすぐに判った。その中に将軍服と副将軍服の二人が混ざっていたからだ。

副将軍の服を身につけているのは藍色の髪をした長身の男。中背の痩せた男を人混みから庇うように肩を抱き寄せて歩いている。精悍でほどよく筋肉がついたその体は騎士として理想的なものだろう。
その隣の庇われているしかめ面の痩せた男は、逆に全く騎士には見えない体格をしている。教師や文官と言われた方が納得できそうな躰だ。しかし、身につけているのは将軍服。高位騎士の証である大きく長い背のマントと中央に縫い取られた羽根の数字は第二軍の長であることを示している。
二人が通り過ぎると剣舞の時とは別のざわめきが起きた。

「すげえ。智将ニルオス…第二軍将軍だ」
「うわぁ、俺、見ちゃったよ」
「隣にいたのは智将の片翼、グリーク副将軍だろ。格好良かったなぁ!」

周囲の興奮に満ちた会話を聞きつつ、あれが第二軍将軍か、とスティールは思った。
帯剣さえしていない騎士というものをスティールは初めて見た。しかし護衛がいて、片翼と言われる副将軍まで一緒だったので必要なかったのだろう。

「ラッキーだったね」
「だな」

ティアンとラーディンも思わぬ貴人との邂逅に嬉しそうだ。

「スティール、行こう」
「うん」

今日この場にいなかった智将のもう一人の片翼との運命を知らないスティールは、特に何も思うことなくその場を去ったのであった。