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◆奉剣の舞(7)


それを見ていた人々がいる。
剣舞の型を親友と共に流すように舞っていたカイザードは、親友が手を止めたことに気づいて視線を追った。
遠目に試験を受けている人々の姿が見える。

「お、スティールの番か」

上級印の持ち主は少ないため、すぐに順番が来たようだ。

「あれ?あいつペア相手がいねえな」
「奇数だったんじゃないか?それとも多重印だからか…」

相手は土と炎の相手のようだ。炎球が飛び、大地が動いているのが感じられる。士官学校生とはいえ、さすがは上級印の持ち主だ。そこそこ威力ある技が動いているのが見える。
しかしそれらの技は全てスティールには届いていないようだ。何らかの力によって技がはじき飛ばされているのが見える。

「防御か?あいつ土の技使ってないみたいだが、どうやって守ってんだ?」
「チカチカと何かが光っている…あ、紫竜がいるようだぞ」
「マジか?すげえな」

ドゥルーガが戦う姿を見るのは紅蒼の二人にとっても初めて眼にするものだ。いつの間にか周囲の同級生たちも実戦に注目している。
遠目であるため、小鳥のように小さな紫竜の姿は殆ど見えない。しかし、光のようなものが術をはじくたびにその存在が感じられる。明らかに印とは違う力が動いているのが判る。

「スティールのヤツ、何やってんだ」

小竜任せで全く動いていないように見えるスティールにカイザードが焦れた時、己の印が熱を持ったのをカイザードは感じた。カイザード自身は印を動かしていない。ということは運命の相手であるスティールが印を動かしているのだろう。
炎は見えない。何らかの技を発動させようとしているのだろうか。それにしても長い。

(こんなに時間をかけてりゃ、マジな戦いじゃ発動前に殺されておしまいだぞ!)

カイザードが焦れたとき、地面にひびが入るのが遠目に見えた。
そのひびはスティールを中心として放射状に広く走っていく。大地を砕く地裂斬に見目は似ているが、あれは使い手の前方を砕く技だ、使い手を中心に放射状に砕くものではない。

「なんだ、あの技は!?」
「範囲が広いぞ!!」

周囲から驚愕の声があがる。
そのひびは大きく広がり、慌てて敵対するペアが後退する場所まで飲み込んだ。
そのひびが赤く輝き、ひびの状態を魔法陣のように地面に浮かび上がらせる。
その光景は離れているカイザードたちの方がよく見えた。

「地面から炎!?」
「まさか!?」
「炎蜘蛛陣(リ・ジンガ)か!?」

炎と土の上級合成印技は射程範囲が広く、威力も強大なものになる。
勢いよく地面から吹き出した炎が、轟音を立てて岩ごと天へ向かって舞い上がり、敵を吹き飛ばす。熱と岩によって技を受けた敵を倒す技なのだ。
練習時よりも完成度が増した技は、範囲は見物していた他の生徒たちまで巻き込みそうな勢いで放たれた。
近衛騎士でも使える使い手は一握りという技により、野外訓練場の一角は大きく破壊され、壁付近まで吹き飛んだ。


++++++++++


バチバチと音が響く。ドゥルーガの雷の音だ。
己が放った技とはいえ、試験相手を殺してしまったかもしれないと青ざめたスティールはその試験相手の真上に小竜が浮かんでいることに気づいた。
二人の生徒は呆然とした様子で地面に座り込んでいる。

「おい、スティール。こいつらを殺すところだったぞ。殺しちゃいけないんじゃなかったか?」
「うん、ありがとう、ドゥルーガ!!殺したかと思ったよ!!」
「お前な…」
「こっちまで殺されるかと思ったぜ、スティール」

引きつった声がかけられる。振り返るとラーディンが己の武具である盾を発動させていた。
周囲にも同じように防御技を発動させている土の上級印持ちがいる。
慌てて大きく逃げたらしい生徒たちの姿もちらほらと見える。

「あれ、炎蜘蛛陣(リ・ジンガ)だろ?すげえ威力だな。けど、これじゃヤバイだろ、スティール…」
「ご、ごめん」

二人をいっぺんに倒す技が思う浮かばなかったため、唯一使える合成印技を使ったスティールはやっぱりまずかったかと頭を掻いた。
そこへ遠くから声が飛んできた。制止する声に振り返ると赤い色の風に飛びつかれた。

「すげえな、スティール!!見てたぞ!!」
「せ、先輩!?」
「おい、カイザード、落ち着け」
「格好良かったぞ!!あんな大技いつ使えるようになったんだ、聞いてねえぞ!!」
「え、ええと…」

むしろあれしか使えませんとは言えず、スティールは言葉に詰まった。
炎を出すとか大地を砕くとかそういう力任せの技しか使えないのだ。

「おい、カイザード、スティールは授業中だ。邪魔をするな」

カイザードの腕を掴んで引きはがしたのはラグディスだ。

「先生すみません、お邪魔しました。戻るぞ、カイザード。話は後で聞け」

ぐいぐいと引きずっていくラグディスに引きずられながら、後で絶対話を聞かせろよ、とカイザードが怒鳴る。
そこへドルスがため息混じりに告げた。

「合格だ、スティール。だが次回から使わないように。ただ、放てばよいというものではないぞ」
「すみません…」

合格したものの問題点だらけのスティールであった。