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◆奉剣の舞(6)


試験当日がやってきた。
試験は生徒によって、日程をずらして実施されている。
今日は、火、風、土、水の印の持ち主の中でも上級印の持ち主が試験の日だ。
試験会場はスティールがドゥルーガと練習によく使用した外の訓練場だ。上級印は威力が強いため、一番広い訓練場を使うのだ。
スティールはそこの入り口付近でよく知った顔に出くわした。
訓練着に身を包み、汗を拭っているのはよく知る先輩だ。周囲には数人の生徒がいる。

「カイザード先輩」
「スティールか。今から授業か?」
「はい、先輩は?」
「剣舞の練習。今は休憩中だ」

憧れの先輩の姿に、スティールと同じく試験の生徒たちが嬉しそうに注目している。

「スティール、お前、何色の花が好きだ?」
「ええと、特にこだわりはありませんが」
「何だよ、張り合いがないヤツだな。まぁいい。俺も花にはあまり詳しくねーしな」
「?」

花を贈る聖アリアドナの時期でもないのに何故、花の好みを聞かれるのか判らず、スティールは首をかしげた。
そのとき、教師の呼ぶ声がした。集合らしい。

「ん?お前、今から実技試験か?」
「はい」
「がんばれよ」
「はいっ、ありがとうございます」

自信は全くないが、成績が良くないスティールにとって印の授業は点が取れる大切な科目だ。
せめて平均点は取りたいと思うスティールであった。


++++++++++


試験は実戦方式だ。
通常はペアを組んで行う。
上級印の場合、威力のある技が出るので見栄えもする。剣舞練習の上級生たちも離れたところから休憩がてら、こちらを見ているようだ。
上級印の持ち主は大体、一学年につき、30〜50名前後。王都士官学校なのでこれでもずいぶん多い方なのだ。その中にはスティールのような多重印持ちも幾人か含まれている。スティールの学年はスティールも含めて三名だ。
そしてスティールは一人で戦うように告げられ、驚いた。

「あいにく奇数でな」
「いや、あの、そう言われても…」
「特別に武具を使うことを許す」
「ええ…でも一人って…」

酷い、あんまりだと嘆くスティールに同情したような視線を向けるのはラーディンだ。彼も土の上級印持ちであるため、試験を受けるのだ。

「よかったじゃねえか、絶対受かるぞ」

突如、聞き慣れぬ男の声が響く。スティールにとっては聞き慣れた声だが、周囲の人々にとっては殆ど初耳の声だろう。
小手状態から小竜状態になったドゥルーガは使い手の肩に止まり、周囲の注目を浴びた。この小竜は普段、小手状態で人前では殆ど小竜状態にならず、しゃべりもしないのだ。そのため、この姿を見たのは殆どの人が初めてだろう。

「俺に任せろ。皆殺しにしてやる」
「それ困るから、ドゥルーガ!防御だけにしてくれよ!」
「なんだつまらん」

そこで名を呼ばれた。担任のドルスだ。彼はこの試験の担当教官の一人なのだ。
彼は真顔でスティールに重々しく告げた。

「スティール、殺人は禁止行為だ。くれぐれも人を殺さぬよう、お前の武具に言い含めておいてくれ」
「も、もちろんですっ」

周囲の生徒たちの恐怖と驚愕の視線が痛い。
慌てて頷き返すスティールであった。