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◆奉剣の舞(2)


一方、カイザードは他の代表者たちと衣装合わせを行っていた。
教室のうちの一つを貸し切って行われており、カイザードと同じく代表に選ばれたラグディスも服を着ている。
生徒ということで服は普段の制服だが、やはり国王の御前にでるということで華やかさを見せなければならない。胸元につける花も鮮やかで大輪のものを数個ほど組み合わせて作り、マント止めや紐も見栄えする品を用意するのだ。
剣舞の練習後だったため、運動着から制服へ着替えていたカイザードは、同じく着替えているラグディスから鎖骨の部分を指先でつつかれた。

「痕が残ってるぞ」

からかうように言われ、カイザードは胸元に視線を落とした。
しかし、恋人につけられた痕というのは不快を感じない。カイザードはニヤリと笑んだ。

「そうか?…ま、いいだろ?」
「まぁ隠れる部分だから構わないだろうが」
「な」

代表者の中でも群を抜いて容姿に優れた二人の会話に周囲から小さくため息が漏れる。
同じ衣装を身につけていてもカイザードとラグディスの華やかさは圧倒的だ。
剣舞披露の場でも二人が周囲の視線を独占するのは間違いないだろう。
教師も他の代表者もそれが判っているため、剣舞の一番映える場面は二人に行わせることになっている。今年の剣舞は例年にない見栄えするものになるだろうともっぱらの評判だ。
いつも一緒にいることで仲が疑われている二人だが、この会話からすると互いが相手ではないらしい。
人気が高い二人だ。当然ながらこの二人が儀式後に花を渡す相手が誰なのか、噂になっている。中には予約しようとしている積極的な生徒もいるようだが、二人は拒否しているらしい。

「お前ら、誰に花を渡すんだ?」

どうにか聞き出しておいてくれと頼まれている生徒が勇気を出して問うと、二人は顔を見合わせた。

「恋人」
「後輩」

あっさりと答えた二人の渡す相手は同一人物だったが、周囲がそれに気づくことはなく、噂は一気に校内を駆けめぐったのであった。