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◆断片的な海のように(6)


一方、王都のフェルナンはスティールの炎の相手かもしれないという人物と会っていた。
カイザードと話をした三日後にやってきた相手だったが、フェルナンは故意にその事実を伏せさせ、機密事項とした。カイザードに知られたくなかった為だ。

(あの顔は何をするか判らない顔だったからな…)

フェルナンのカイザードに対する印象は、表裏のないはっきりした性格の人物、というものだった。正義感が強く、何事にもまっすぐ対応する人物、という印象だったのだ。
それだけに話をしたときに見せた表情は印象に残り、フェルナンに危機感を抱かせた。
スティールの相手に会わせるべきではない。そう決意させたのだ。

新たなスティールの炎の相手は、一言で言えば、少しカイザードに似ていた。外見ではなく、性格がだ。
黒い髪と黒い目、長身でなかなか容姿は整っている。カイザードほど派手な美貌ではないが、まっすぐな眼差しやいかにも真面目そうな雰囲気は周囲に好感を抱かせそうだ。
年齢はスティールより数歳ほど上だろう。二十代半ばだという。
ディンガル騎士団出身のその人物はスティールが不在だと知ると、すぐに騎士団に戻りたいと言い出した。仕事が残っているのだそうだ。

(実力主義で無駄を嫌うディンガル騎士らしい人物だな)

王都に残って遊ぼうなどと考えない生真面目さや、表裏のない、はっきりした性格はカイザードとの共通点を感じさせる。

「戻るのはかまわない。だがまた来ていただくことになるかと思うがいいかな?」
「かまいません。仕事ですので。では失礼いたします」

スティールに会うことを仕事と言い切り、執務室を出て行った相手にフェルナンは苦笑した。
今回の相手は仕事以外でスティールに興味を抱かぬ人物らしい。

(まぁ、好都合ではあるね)

むしろ運命の相手をそれぐらい割り切って考えられる相手の方がフェルナンとしては面倒がなくていい。
その点、問題はスティールの元相手となったカイザードの方だろう。仕事ぶりは問題がないと聞いているが、少々思い詰めているようだとラーディンからの報告を受けている。注意して様子を見ておくようにフェルナンがラーディンに命じておいたのだ。

(滅多なことをしないよう、他にも人をつけておくか)

同じ運命の相手を共有する関係とはいえ、フェルナンにとってカイザードとラーディンはあくまでも部下なのだ。滅多なことをしないようカイザードに監視をつけておくことに、フェルナンは疑問を感じない。行動に危険性がある人物に対して、当然の行動だと考えている。むろん、カイザードに問題がなくなったら監視は外すつもりだ。

(さてスティールはどうするつもりかな)

スティールが出すであろう結論は、フェルナンにとっても十分興味の対象であった。