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◆断片的な海のように(3)


翌日、スティールは上官である大隊長のコーザの執務室にいた。
同じ室内には他にも騎士が集められている。

「第五軍へ援軍?」
「そうだ。水と風の印に長けた使い手のみを選抜し、第五軍とともに海軍の海賊討伐に参加することになる」

コーザも風の上級印持ちなので参加するという。

「海賊ですか…俺、海は全く経験がありませんが…」

強くもないし、戦力になれるかどうかと思いつつ告げるとコーザは肩をすくめた。

「あいにくだが水の上級印持ちは絶対参加だ。諦めてくれ」

あっさり告げられ、スティールはがっくりと肩を落とした。
風と水の印持ちだけが参加となると必然的にカイザードやラーディンとも別行動となるだろう。
そういえばフェルナンは参加するのだろうか。彼は風の上級印持ちだ。

「将軍位は第五軍の方々のみだ。今回は第五軍の出陣であり、我々はあくまでも第五軍への援軍という形になる」

(うっ…フェルナンとも別なのか…)

しかも戦場は海だ。スティールは海を見たことがない。実家は山の中だったのだ。

「お、俺、泳いだこともないや」

今から不安たっぷりだ。
思わずそう呟くと、「俺もだ」と隣から声が上がった。ラグディスである。彼も風の上級印持ちということでこの場に呼ばれていた。

「…カイザードと別任務か」

よく一緒にいる親友と別の仕事であるのは彼にとっても喜ばしいことではないのだろう。しかめ面である。

(そういえば俺もラーディンと長く離ればなれなのは初めてだな)

遠征だ。長くかかるだろう。
今からうんざりするスティールであった。


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「あのさ、ドゥルーガは泳げるのかな?」
「あぁ。水は好きだ」

あっさりと肯定の返事が返ってきて、スティールは安堵した。

「ギランガっていう東の港町に行くらしいよ」
「知っている。知り合いがいる」
「知り合い?」
「海の底で寝ているはずだ」

海の底で寝ているとは人間じゃないようだ。いったいどういう知り合いだろうとスティールは疑問に思った。

「あ、そういえば東の海には叔父さんがいるらしいよ」
「ん?」
「やっぱり薬師をしてるんだって」
「ほう…」

ドゥルーガの声は好意的だった。どうやら叔父に好感を抱いたらしい。
そういえば家族にも好意的だったな、とスティールは思った。ドゥルーガは薬師という職が好きなようだ。

「会えるといいんだけどね、仕事じゃ難しいかな」
「そうだな」

不安たっぷりだが少しの希望を持って旅立つことになった。