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◆聖アリアドナの花(4)


※性描写があります。苦手な方はお気をつけください。

(……平常心、平常心っと……)
スティールは必死だった。調合に集中せねば手元が狂いそうだった。
医務室には複数の薬が並んでいた。その中から材料を複数手にとって、すり鉢で混ぜ合わせる。その間にも医務室には苦しむラグディスの甘い声が響いていた。
医務室にはスティール、ラグディス、そしてコーザしかいない。医師はタイミング悪く帰宅済みで、コーザが校長から利用許可をもぎ取っていた。
カイザードはコーザと共に教師へ説明した後、保健室の入り口の外で見張りをしてくれている。
コーザは薬ができるまで、ラグディスの体を慰めていた。性的行為に慣れているのか、コーザの指の動きは躊躇いがなく、冷静だった。

「よし!出来ましたっ」
「よし、よくやった。飲ませればいいんだな?」
「いえ、塗り込む方です。腸壁吸収型なので」
媚薬用鎮静剤ですから、とスティールが告げるとコーザは苦笑した。
「まぁいいけどよ…。らしいぞ、蒼いの。恨むなよ」
「……っ……はい……」
「効きはこっちの方が早いんですっ。一応速効型なのでっ」
恨まれるのは叶わないとスティールは慌てて主張した。
寝台に突っ伏し、苦しげに枕を片手で掴んでいるラグディスは目元が潤み、顔は真っ赤だ。普段のクールな面影は全くない。酷く艶っぽい顔だったが、事態に慣れているコーザはもとより、助けるのに必死なスティールも煽られることはなかった。

「ほら、腰をあげろ。入れるから」
「……っ……むり、…ですっ…」
「あぁ腰が立たないのか。薬師、手伝ってやってくれ」
「は、はいっ」
「っ…いい、いらな…」
「蒼いの、恥ずかしがってる場合か、今更だ。おい、薬師、俺の命令をきけ」
「違…カイザードに恨まれるっ……」
「だ、大丈夫ですっ、カイ先輩には話しませんからっ」
「や……っ……ふぁっ……」
体中が敏感になっているのだろう。スティールが腰を支える手伝いで触れただけでラグディスは甘い声をあげた。恥ずかしそうに唇をかみしめながらも触れられる感触がたまらないらしい。支える手から小刻みに触れる体が伝わってくる。

「……っ、くっ……ふ…ぅっ……はぅ……っ」

その間にコーザはクリーム状の鎮静剤を中へ指で塗り込んでいく。大さじ二杯分ほどある量を指先に掬い取っては塗り込み、という作業を繰り返していく。クチュクチュと塗れた音が静かな医務室内へ響いていく。それが余計に卑猥さを掻き立てていく。

(……平常心、平常心……)

スティールはラグディスの体を支えているだけなので、まだいい。しかし塗り込まれてるラグディスにとって、それはほぼ愛撫に等しい感触なのだろう。
ただでさえ、ラグディスは薬で性欲を煽られているのだ。体に触れられているだけでも辛いだろうに、敏感な箇所を指が出入りしているのだ。感じぬわけがない。ラグディスは必死に声を噛み殺しているが、性器は限界近くまで張りつめ、先走りをこぼし続けている。

「蒼いの、一旦達っておけ」
「…いい…っ、いらな…」
「どうせこのままならイクぞ。これから奥まで塗り込むからな」
内部へ入り込んだコーザの指が今までなく奥へ差し込まれる。剣を握り慣れた者らしく太い男の指は内部をぐるりとかき回すように動き、柔らかな粘膜を確認するように小刻みに動いていく。その指は正確に奥のしこりも見つけ出した。ただでさえ強い性感帯の一つである前立腺は薬で敏感となっており、神経の固まりのように昂ぶっていた。その部分を指先で押しつぶすように抉られ、高められたラグディスの体はひとたまりもなかった。

「っ…あああああーっ」

ズンと腰に来るような低く甘い声をあげ、ラグディスは達した。耐えに耐えていただけに達したときの開放感は凄まじかった。痙攣するように体が動き、吹き出すように飛び出した精液は粗相したかのようにぐっしょりとシーツを濡らした。
「……っ、ぁあ……ああ…」
達したことで正気を飛ばしたのか、ラグディスの目は焦点があっていない。
普段冷静な一面しか見せることのない美形の先輩の感じ入っている表情は壮絶な艶で、スティールはさすがカイザードと話題になるだけある人だな、と妙な感心をした。他のことを考えていなければ、あらぬことをしてしまいそうだった。
塗り込み終わるとコーザは器をスティールへ返し、ラグディスの腰を片手で掴み、背中側から抱き寄せるように引き寄せた。
必死に耐えていたせいで涙でぼろぼろのラグディスにコーザは苦笑した。

「よし、よく頑張ったな、蒼いの。薬師、タオルをやれ。後は外にでていろ。そうだな、30分ぐらいでいい。俺はこいつが落ち着くまで見ているから」
「はいっ」
スティールはコーザに布を渡すと医務室を出た。これからコーザが何をするのかぐらい、スティールにも見当がついている。
スティールが医務室を出るとカイザードが待っていた。

「スティール、ラグディスは?」
「薬ができましたので、あと三十分ぐらい待ってくれと」
「そうか……あいつら…絶対ゆるさねえ…っ」

カイザードは泣きそうなほど悔しげな顔をしている。親友が被害にあったことがとても悔しいのだろう。

「犯人の連中は、放校処分は免れないだろうと騎士さまがおっしゃってました。あと、今回の件は表沙汰にならぬようにもしてやると」
「そうか…ありがたいな。こんなこと噂になったらラグディスが可哀想だ」

スティールは頷いた。

「スティールもありがとな」
「いえ…」

事件にひどくショックを受けているらしいカイザードを抱き寄せつつ、スティールは目を閉じた。ラグディスには申し訳ないが、被害を受けたのがカイザードじゃなくてよかったとスティールは思った。カイザードが被害を受けていたらスティールは平常心ではいられなかっただろう。小竜に手伝ってもらってでも犯人の連中を殺してしまったかもしれない。

(先輩大丈夫かな…)

カイザードとラグディスの受けた心の傷も心配だ。
今はただ祈るしかない。そう思いつつスティールはカイザードを抱きしめる腕に力を込めた。