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◆炎剣の使い手(5)

翌日、帰省前に見送ってくれるらしく、ラーディンがやってきた。
ラーディンは王都に家があるため、秋休暇の帰省などはないのだ。

「俺にもちゃんとかまえよ、お前」

先輩とばっかり練習してるだろ、と言われ、確かに訓練日などはカイザードと過ごしていたスティールは申し訳なく思った。

「うん、ごめん、ラーディン」

ちゃんと相手は公平に扱わねばならない。そう思いだし、戻ったらちゃんとラーディンと時間を作ろうと思うスティールだった。



スティールの実家は祖父、両親、双子の弟が暮らしている。
祖父と父は薬師。母はその手伝いをしつつ、一家が暮らすのに不自由ない程度の畑を作っている。弟サフィールは跡継ぎだが、時々山へ狩りへ行く。スティールはそれに付き合っていた。

「へえ、そんなことが……大変だな、スティール」
「うん……まぁね…」

スティールが選ばれたとき、家族は全員が困惑顔だった。中でも弟は同情的だった。スティールが穏やかな生活を望んでいて、名誉ある職など望んでいないことを知っていたからである。弟とスティールは似たもの同士だった。
その弟の腕には緑の上級印がある。地元で行われた儀式に出て、その印を得たらしい。スティールの家は代々緑の癒し手として続いてきたから、弟の腕にもその印が出たことは全く不思議ではなかった。

「運命の相手か。そういえば俺にも相印の相手いたぞ…」
「え?お前にも?けど一人なんだよな?」
「そりゃそうだ。それが普通だ。一人につき印は一つなんだから」

お前が普通じゃないんだと言われ、スティールは拗ねた。

「どーせ…」

で、相手は?と問うたスティールは弟がため息混じりに指を指すのを見た。
指先の方を振り返ると頭に黒いバンダナをした幼なじみの少年が樹を背に立っているのが目に入った。


フィールードは藁のような明るい茶色の髪に褐色の瞳をした明るい人物である。
スティールの地元は小さな町なので子供の数も限られている。必然的にその少ない子供同士で遊ぶことになる。
幼なじみのフィールードはふたつ上だが、そんな経緯もあり、幼い頃から一緒に遊んだ仲だった。彼の家は畜産を営んでおり、牛や馬を育てている。幼い頃は彼の実家の牧場で駆け回ったものだった。

「あいつか……世間は狭いな」
「全くだ」
「あいつも緑?」
「あぁ緑…」

っつーか地元の奴らは殆ど緑か地だ、とサフィール。そういえばそうだった、とスティールは思った。
双子同士で話していると、苛立ったようにフィールードが近づいてきた。

「スティ、久しぶりだな。サフィ、ひでえぞ。今日は俺と過ごす約束だっただろうが」

フィールードはサフィールを迎えに来たらしい。聞けば、約束をしていたのにサフィールが勝手に反故にしてしまったのだという。

「兄が久しぶりに帰ってきているのに何もしないわけにはいかないだろうが。親父が肉を捕ってこいというから狩りに出たんだ」

サフィールは兄が帰ってきたのにごちそうをしないわけにはいかないだろ、と反論した。狩りへ出たのは兄スティールへのごちそう用の肉を得るためだったらしい。
これは口出ししたら拗れそうだとスティールは二人の口論に参加しないことを決めた。

「……何日ぶりだと思ってんだよ……俺、やっとお前と一緒に過ごせると思ったのによ……今日も一昨日から仕事頑張ってやっと休み取れたんだぜ」

フィールードはすっかり機嫌を損ねている。
秋でどこも忙しく、サフィールも殆どフィールードと過ごす時間が取れていないらしい。そんな中、約束を取り付け、やっと一緒に過ごせると思った矢先にすっぽかされたのだという。
幸い首尾良く、獲物が手に入った為、夕食まで少し時間がある。フィールードに申し訳なく思ったスティールは弟に一緒に過ごしてきたらどうだと薦めた。

「いや…それなら今夜の方がいい」
「夜?」
「そっちの方が早いんだ。ヤったら機嫌直るし…」

は?と言う暇もなく弟はフィールードにそのことを告げた。

「マジ!?んじゃいつものとこで待ってるな!」

フィールードは上機嫌で帰っていった。そんなことでいいのか?とスティールは疑問に思った。

「最近あまりしてないし……」
「お前どっち?」
「ヤる方。最初、賭をして決めたんだけど、ヤられる側ってすごく気持ちイイらしくて、それ以来、それでいいってあいつが決めた。俺も別にこだわりないし、そのままだ」
「…へー…」
「特に突っ込まれて出されるとたまんねえらしいぞ。お前も相方に聞いてないか?」
「いや、聞いてない…」

というかそんな話するほどまだヤってないし、とスティールは思った。それどころか攻守変更を言い出されているような状況だ。

「そうだ、これ」

弟に小瓶を差し出される。やや赤みがかった液体が中に入っていた。

「おい、これ…」
「あぁ。俺が調合した媚薬。後遺症はないから使うといい」

土産だ、と言われ、なんという土産だ!とスティールは思った。