「ドゥルーガ!!」
小竜が力なく落下する光景を目の当たりにしたスティールは、青ざめて地面に落ちた小竜へ駆け寄った。
「ドゥルーガ、大丈夫!?なんで電撃を使わなかったんだ!?」
「相性が悪いと言っただろう。逆に増幅させてしまうだけだ」
「ええ!?そうなのっ!?」
「それより逃げろ。近くにいるということだぞ」
「わ、わかった!!」
慌てて頷いたところにティアンの声が響いた。
「スティール、危ない!!」
ぎょっとして振り返ると背後の茂みから昨夜見た影が出てくるところだった。
「うわ!!」
慌てて逃げようとするが、ドゥルーガを拾い上げるために座り込んでいたところなので、この至近距離では間に合いそうにない。
そのスティールを助けたのは炎の球だった。放たれた炎の球は邪霊の顔面に当たり、邪霊を怯ませた。
「ウェルザ!!」
炎の印を持つウェルザが印を放ってくれたらしい。
無口なウェルザは早く来いというようにスティールへ頷いた。
「ありがとう!!」
その隙にスティールはドゥルーガを抱きかかえてその場を離れた。
そのスティールを庇うようにネクリスとルーガが前へ出る。
「効くか効かないか、とりあえずやってみるしかねえな!!」
「全く効かないということはなかろう。風の印と相性がいいらしいからな」
「風の刃!!」
三日月型の風の刃を放つ攻撃技だ。
風の攻撃技としては初級の技だが、確かに邪霊とは相性がいいのだろう。見事にぶつかった邪霊たちは露骨に怯み、動きを鈍らせた。
「さすがに倒すまではいかないか、くっそー!!」
「だが時間稼ぎにはなるな、いいぞ」
悔しがるルーガとは反対に、ネクリスは好戦的に笑んだ。
「倒せぬと決めつけられるのは腹が立つ。全滅とまではいかずとも、何体かは片付けてみせるぞ、なぁルーガ?」
昨夜のことが引っかかっていたらしいネクリスは軽く唇を舐めると、自分と同じく風の印を持つルーガへ挑発めいた台詞を吐いた。元々貴公子のような風貌を持つ容姿の良いネクリスだが、そういう表情をすると酷く扇情的で色っぽく映る。深緑の髪が少し乱れて顔にかかり、青い瞳が戦意に輝いているのもまた魅力を増す要素となっている。
真横でその表情を見せられたルーガは今が戦闘中ということも忘れて、ネクリスに見入った。
そこへ新たな声が割って入った。
「俺も…」
バリトンの声で言葉短く参戦の意を表したウェルザは目を細めて前方を見据えた。
「炎も相性は悪くないようだからな。全部焼き尽くしてやる」
我に返ったルーガは仲間達の戦意を受け、真顔で頷いた。
「ああ!!やってやるぜっ!!ドゥルーガの仇を取ってやる!!」
++++++
一方、スティールは胸に抱いた小竜をゆさゆさと揺さぶっていた。
「ドゥルーガ、大丈夫?ドゥルーガ」
「そんなに揺さぶるな。酔う」
「ええ?ご、ごめん。ええと、癒しを使おうか?」
「不要だ」
小竜はスティールの腕に小手として戻った。
「全く、気持ち悪いものを取り込んでしまった。あとで吐き出すか浄化するか、しておかないと。……邪霊も哀れと言えば哀れか。しかし俺が巻き込まれるいわれはない」
「何だって?ドゥルーガ」
「いや……それより奴等を止めろ。ある程度、倒すことはできても全滅は無理だろう。体力を消耗しすぎないうちに逃げた方がいい」
スティールは不安げに小手を見下ろしつつ、戦っている仲間達を振り返った。
今のところ、邪霊とは数メートルほど離れているが、技を放つネクリスたちは確かに消耗しつつある。
20体以上いる邪霊との人数差を考えれば善戦している方だろう。しかし邪霊の数自体はあまり減っていない。 ドゥルーガの言うとおり、全滅させることを試みるより、この辺りで逃げた方が良策だろう。
「ネクリス、ルーガ、ウェルザ、撤退しよう!!ラーディン、防御壁を放つよ!!」
「了解!!」
ネクリスとルーガは残念そうに舌打ちし、ウェルザは無言で頷いた。
ラーディンとスティールは下がってくる味方を庇うように進み出て、土の印を放った。邪霊の目の前に光る壁のようなものが現れる。土の防御壁だ。邪霊の力次第だが、数分は持つだろう。
「よし、撤退しよう!!」
その時、新たな声が響いた。
「やってるね」
ぎょっとして声がした上方を見上げると、スティールにとって見慣れた影が浮かんでいた。