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◆闇神の檻(8)


目隠しをされ、ロープでぐるぐる巻きにされたあげく、布袋らしきものに放り込まれたスティールはわけがわからぬまま連れていかれた。
そして目隠しされているため、どこだか判らない場所へ投げ出されるように放り込まれた。

「いたたたた…」
「お前、確か紫竜の使い手じゃないか」
「え!?だ、誰ですか!?」
「ちょっと待ってろ、解いてやる」

目隠しを解かれる。目の前にいたのは見覚えある人物であった。

「確か、第五軍の…」
「シードだ。訳が分からねえな。俺なら判るがなんでお前なんだ」
「な、何がですか?」

シードは丸腰で片手片足にそれぞれ鉄球のついた鎖がついていた。どうやら武具を奪われ、牢に放り込まれたらしい。
聞けば、具合の悪そうな老人を助けようとしていきなり殴られたそうだ。
二人が入れられた場所は地下牢とおぼしき場所であった。三方は壁、一方は鉄格子。
牢の向かいにも似たようなつくりの牢がみえる。人はいなかった。

「シルバ公爵家を知っているか?」
「いいえ」
「アルディンの母方の実家だ」

第五軍将軍アルディンは南東の大貴族ミスティア家の出自である。
彼は末弟の母親が王妹であるため、ミスティア家を継ぐ予定はないらしいが、母方の血も十分良いことで知られていた。

「シルバ公爵家は南の貴族でな。ミスティアほどの力はないが、十分いい家柄らしい。彼等はアルディンをある方と結婚させたがっていてな。…アルディンは貴族でありながら軍に入ったことからも判るが、かなり自我が強くて頑固なヤツだ。周囲の意のままになるようなヤツじゃない。彼等はアルディンを動かすために強硬手段にでたようだ」
「つ、つまり…」
「俺たちはアルディン用の人質というわけだ」
「!!!!」


++++++


スティールの副官オルナンは困惑していた。
昼前から出ていったスティールが夕刻になっても第二軍から戻ってこないのである。
そこへ迎えに行かせたキーネスが戻ってきた。聞けば、とっくに戻ったはずだと言われたという。

(おかしいな…)

そこへラーディンがやってきた。ラーディンはスティールの隊の隊員であり、執務室にやってきても何らおかしくはない。彼もまた、スティールを待っていたらしく、まだ戻っていないかと確認へ来たようだった。

「まだ戻ってないんですか?もうフェルナン様は戻っておられるのに」
「それが第二軍の方はとうに帰ったはずだと言われるんだ」
「……」

三人は顔を見合わせた。

「昨日の今日で報復攻撃ってことはないと思いますが…」
「あり得ない事じゃないが、スティールには紫竜がいるからな。大丈夫だとは思うが」
「念のため、コーザ大隊長へ連絡しておきますか?」
「そうしよう」


++++++


一方、第五軍は大騒ぎになっていた。
第五軍将軍アルディンは曲がったことが大嫌いな性格である。
彼は母親と折り合いが悪かった。貴族のお嬢様として育った母親はアルディンを溺愛したが、アルディンは母親の意のままにならず、家を飛び出して軍へ入った。そのことを母親は未だに許してないのである。
己の望むような相手と婚姻させたいアルディンの母は、アルディンの婚姻相手として王族を選んだ。
アルディンも困惑したが、相手も困惑したようだ。一応大貴族からの話ということで邪険にはしなかったが、何故今更という思いが強いらしい。当然だろう。王妹がミスティア家の正妃として嫁いでいるのだから、アルディンが王家と婚姻してプラスとなることは何もない。

(間違いなく母が勝手にしたことだろう…)

気が強くて我が儘な母親にはアルディンの父である公爵も手を焼いているらしい。常の多忙さもあり、母を放置気味のようだが、これはやり過ぎだろうとアルディンは思った。
父に至急連絡を送りつつ、アルディンは巻き添えになったシードのことを思った。

(私への人質だから殺されることはないと思うが、すぐに助け出さねば…)

そして先日、自分を庇って切られたニルオスのことを思う。結局邪教の集団だったと判ったが、本当にそれだけだったのだろうか。背後で手を引いている輩がないとも限らない。
とても頭の切れる彼のことだ。恐らく調べているだろうが、アルディンの方でも調べる必要があるだろう。

「すぐに大隊長を全員呼べ」

醜聞だ。出来れば表沙汰にしたくはないが、シードが攫われた以上、急いで救出する必要がある。いつも自分の為に働いてくれる副将軍を見捨てるつもりは全くないアルディンである。
全力を尽くしてシードを救出するつもりであった。