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◆闇神の檻(7)


一方、第二軍執務室。
ニルオスに呼ばれたフェルナンは、ニルオス、グリーク、サフィンという元同僚たちに事情を聞き、ため息を吐いた。

「あの組織が生き残っていたとはね」
「恐らく根が残っていたのだろう。再生し、少しずつ組織を回復させていたようだ」

フェルナンは無言のニルオスを見た。ニルオスは腕の傷のせいでまだ顔色が悪い。命に別状はないものの、少々出血が酷かったのだ。
ニルオスは襲われたとき、一緒にいた相手を庇って傷を負ったという。
その相手の話では服を脱いだばかりだったから、戦えないことはなかったのにということだった。実際、その相手の方がよほど腕が立つのにニルオスらしくない話だとフェルナンは思った。

(人を人と思っていないニルオスでもアルディンに関しては、多少、情が動くということか…)

敵に、部屋に踏み込んでこられ、アルディンを庇って腕を切られたところで、タイミングよくスティールが訪れたらしい。
襲撃者たちは騎士服姿のスティールに驚き、慌てて逃げ出したということだった。

(スティールはニルオスの護衛だと思われたんだろうな。相変わらずスティールは見た目に寄らないというか、びっくり箱のような人間というか…)

頼りなく見えるが、時として思いもかけない働きをするスティールは、ニルオスに命じられた重要書類と一緒に、邪教の組織に関する書類まで奪ってきていた。当人は無意識だったようだが、おかげで闇に隠れていた組織の重要な情報が入手できたことになる。

「おい、フェルナン。シルバ公爵家を知っているか?」
「いや、知らない。南の貴族ということぐらいなら知っているがね」
「ならいい」

言葉を濁したニルオスに、らしくないなと感じつつ、フェルナンはグリークと共に組織壊滅のための案を練り始めた。


++++++


翌日、スティールは第二軍本営へ呼ばれた。
第二軍将軍ニルオスは腕に包帯を巻いていたものの、特に問題はなさそうでスティールは内心安堵した。
事件のことを聞かれるのだろうと思ったスティールは、いろいろと返答を考えていたが、その予想はいきなり外れた。

「俺の連れを見たか?」
「は?」
「とぼけるな。宿で部屋を開けたとき、俺の連れの顔を見たかって聞いてんだよ」
「いえ、あいにくとそんな余裕はありませんでした」

スティールが素直に答えるとニルオスは小さくため息を吐いた。

「ならばいい。用件はそれだけだ。この件は口外無用だ。無事、書類を取り戻し、重要な情報を入手したお前には第二等勲章が与えられる。喜べ、次に戦場で一つでも首を取ったら確実に大隊長だ」
「!!!」
「お前を第二軍に引き抜いておけばよかったと珍しく悔やんでいるところだ。フェルナンに嫌気が差したらいつでも話に来い。厚遇を約束してやる」

皮肉屋なニルオスにしては破格の申し出だろう。
しかしスティールにとってはフェルナンとの破局を促されているようなものである。
スティールは曖昧に返答すると急いで第二軍の執務室を出た。


第二軍本舎を出ると昼過ぎの時刻だった。

「鍛冶に行ってくる」
「うん、気をつけてね」

ごく希にだが、ドゥルーガはスティールの側を離れる。それは殆どが鍛冶のためだった。
一体どこでどういう風に行っているのかは知らない。スティールは鍛冶に興味がないからだ。
そのため、このときも特に気にすることなく見送ったスティールはその後、すぐに後悔することになった。
第一軍本舎へ戻る途中、いきなり襲われたのである。

「いたぞ!!」
「!!??」

幸いだったのはすぐに殺されることがなかったことだろう。しかし、拉致されてしまったのである。