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◆闇神の檻(6)


翌日、微妙に眼不足を引きずって出勤したスティールは、ラーディンとティアンが駆け寄ってくることに気づいて驚いた。

「スティール、ニルオス様を襲った暗殺者からニルオス様を守って、重要書類を奪い返し、敵の本拠地を一人でぶっ潰してきたって?」
「ええ?」
「すげえ噂になってるぞ」
「本当なの?凄いね」
「いや、ええと…うん…」

事実ではあるが、そういう風にあらためて聞かされると確かに凄いことのような気がするから不思議だ。

(暗殺者から守ってはいない気がするんだけどな。ニルオス様は怪我をしておられたわけだし、たまたま俺がそこへやってきたというか。そういえばあのとき一緒におられた方は誰だったんだろう、結局判らないままだな。もしかしてサフィン様だったのかな?)

とんでもない誤解なのだがスティールが気づくはずもない。

「けど何で噂になってるの?」

仕事内容は基本的に噂されることがない。戦場で殊勲を立てたというのなら別だが、こういった内容の仕事は機密事項として扱われるのが常だからである。

「今回の話は前例があるんだ。ニルオス様が二軍トップに立たれたばかりの頃、軍内部の不正を明らかにされたのと同時に行われた、大がかりな人身売買組織の取り締まりと繋がりがあるのが明らかだからだ」
「今、第二軍は大騒ぎだよ。あの時に完全に潰したと思われていたらしくてね。フェルナン団長も二軍へ出向かれている。当時、副将軍で関わっておられたから」
「へえ…」
「お前が取り戻してきた書類の中身が凄かったらしいぞ。お前、ニルオス様の書類だけじゃなくて、組織の重要書類まで奪ってきていたらしい」
「ええ?」

それは初耳だ。というか、そんな書類まで混じっていたとは知らなかった。

「よかったな、報奨は確実だぞ、スティール」
「報酬がでたら、何か奢ってよ」
「う、うん…」

報奨はありがたいが、出来ればこんなことに巻き込まれたくなかったと思うスティールであった。


++++++


スティールは隊長になり、小さいながらも専用の執務室を与えられていた。
スティールがその部屋へ行くと既に副官二人が働いていた。

「スティール、昨夜はご苦労だったな」
「は、はい」
「キーネスは一生お前にお仕えすると決意を新たにしたらしいぞ。良かったな。お前も負けないよう頑張れよ」
「は、はい…」

昨夜の一件でキーネスはスティールに感動してくれたらしい。
オルナンはというと、最初から彼は教育係としてスティールの隊に配属されたらしい。キーネスとスティールがある程度成長するまでは、いろいろと教えてくれるようだ。

「第二軍の件を聞いたぞ。大変だったな」
「はい」
「恐らくフェルナン様かニルオス様から呼ばれるだろう。この件、どう転ぶか判らないが、いずれにせよ深く関わるようなことにはならないだろう。元から第二軍の仕事だからな」
「そうなんですか?」
「前回この仕事を裁いているのが第二軍である以上、うちに回ってくることはないさ。第二軍にしてもやり損ねた仕事を余所に回すようなことはしたくないだろうからな」
「そうですか…あの、ニルオス様のお怪我は大丈夫なんでしょうか?」
「あぁ。腕を切られただけで命に別状はないらしい。軽傷で済んだそうだ」
「そうですか、良かった…」

オルナンは本と書類を卓上へバサリと置いた。

「さて、スティール。お前は隊長としての勉強だ。ビシバシ行くから気合い入れて覚えろよ?」

スティールは顔を引きつらせながら頷いた。