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◆闇神の檻(5)


「殺気がビリビリするな。入ったら即殺されそうだぞ、スティール」

止めておけと言わんばかりの台詞にスティールは驚いた。

「ええ!?」

「追ってきたことに彼等は気づいている。この辺は彼等の根城みたいなものなんだろうな」

そう言うわりに余裕顔の小竜にスティールは驚いた。

「ええ!?」
「ど、どうします!?スティール様っ!?」
「逃げよう!!ああ、けど書類を取り返さないと俺がニルオス様に殺される!!」
「えーっ!?」

他の軍団長ならともかく、ニルオスが相手では言い逃れようにも言い逃れられなさそうだ。
今更ながらに自分の不運を悔やんでいると、小竜は翼を広げつつ答えた。

「二人して何をやってるんだ。書類を取り返して敵を倒せばいいだろう。こんな密集地帯の地下室にいるんじゃ、まとめて殺してくださいと言わんばかりだ。地裂斬を放って一気に押しつぶしてしまえ!」
「ええ!?けどそれじゃ…」
「来たぞ!」
「わわっ!!キ、キーネス、俺の後ろに隠れてて!!」

飛び出してきた男達はそれぞれ手に武器を持っている。躊躇う暇もなかった。
パッと肩から飛び出した小竜が入り口付近に立つ男の手から書類を奪い返す。

「…っ、地裂斬!!」

次の瞬間、スティールが放った地裂斬が足下から大きく大地を砕いて建物を破壊し、同時に地下室も地面の底へ沈めていった。


++++++


何とか書類を取り戻したスティールは、すごいです、とキーネスに感動の眼差しを向けられながら、帰路についた。

「何だか、書類が多いね。こんなにあったんだ?」

雑誌のように分厚い束にスティールは少し驚いた。

「さぁな。どんな書類かなど知らないが、それらしいのはそれぐらいだったぞ。それじゃなかったら倒壊した建物の中を掘り返してもらうしかないな」
「う…それは自力じゃ無理だなぁ…」

ニルオスが泊まっている宿屋へ戻るとホールに騎士が三名ほどいた。
その中に第二軍副将軍のサフィンがいた。

「スティール、無事だったか、よかった。お前に何かあったら俺がフェルナンに殺されてしまうところだった」
「いえ、そんな…。あ、これ取り返した書類です」
「よく取り返せたな。諦めかけていたところだったんだが…」

ぱらぱらと書類を捲っていたサフィンは途中で眉を寄せた。

「スティール、これをどこで手に入れた?」
「は?いえ、犯人らしき男たちの根城で奪い返したんですが…西のスラム街です。場所は俺が土の印の術で壊してしまったので行けば判りますが…」
「まさか、またこの邪教の印を眼にすることがあるとは思わなかったな。まだ生き残っていたとは。しかしこうして見つけることが出来たとは、ある意味、ニルオスの怪我の功名かもしれないな……全く。この邪教とうちの団は縁があると見える…」
「あの、何か…?」
「いや、いい。詳しくは…そうだな、後でフェルナンに説明してもらうといい。この件は以前フェルナンが関わっているからヤツに話をしておくから。後は第二軍が引き継ぐ。元々うちの問題だったからな。今日はもう遅い、戻って休むといい。団長が世話になった」
「はい」

スティールはキーネスと共に宿舎へ戻った。