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◆闇神の檻(3)


「いきなり抜かれたな。だが絶対追い抜いてやるから覚悟しろよ!」

意外と言えば意外。らしいと言えばらしいことに、一番スティールにライバル心むき出しで、敵意むき出しであったのはカイザードであった。
しかし判りやすく裏表のないライバル心だったので、スティールとしては気持ちが良かった。
そして恐れていたような部下による嫌がらせや不信感もなかった。

「そりゃ当たり前だろ」

カイザードはあっさりと答えた。

「お前みたいに、まだ騎士服すら微妙に着慣れていないのが丸出しな新人を信じるわけねえだろ。
最初から信じてねえし、期待もしてねえんだよ。
誰だってお前が仕方なく出世したって経緯を知ってるから、みんな『こりゃ自力で頑張るしかねえな』って諦めてんだよ」

カイザードの話にラグディスも同意したように頷いた。

「むしろ頼りない隊長だから俺たちが支えてやらないと…という気持ちになってるな」
「そうそう、他の隊に舐められるのも腹が立つからな。隊長が頼りなさすぎるおかげで、みんなやる気がでてる感じだ」
「騎士になって一年にもならない隊長じゃ、何もできないと判ってるしな」
「……そうですか……」

自立精神旺盛な部下に喜んでいいのか、嘆くべきか迷うスティールであった。


+++


翌日、スティールは、自分の副官になるというオルナンとキーネスに会った。
オルナンは三十代半ば。スティールより十歳以上年上の騎士である。ニヒルな雰囲気を持つオルナンは一癖も二癖もありそうな人物であった。
一方のキーネスはスティールより2、3歳年上に見えた。明るい茶色の髪と褐色の眼を持つ好青年である。彼は騎士ではなく、近衛軍の志願兵であるという。ようするに一般兵だ。
いずれにせよ、どちらも年上である。しかし階級的にはスティールが上なのだ。
やりづらさを感じつつ挨拶すると、オルナンは慣れた様子で頷き、キーネスはやや緊張した様子で返答した。

「コーザ隊長にガンガン教えてやってくれと言われてるんでガンガン指導するぞ。頑張ってくれよ、新米隊長?」

そう言って笑うオルナンは見た目に寄らず、気の良い性格らしい。スティールはこういう人物をつけてくれたコーザに感謝した。
一方のキーネスは生真面目な性格らしい。オルナンによろしくご指導下さいと頭を下げている。どうやらうまくやっていけそうだとスティールは安堵した。

「そういえばニルオス様もスピード出世だったらしいぞ。あの方もお前ほどじゃないが騎士になって二年目か三年目に中隊長へ出世されたそうだ」
「へえ…」
「考えてみりゃ最年少の24歳で軍団長だからな。他に類のないスピード出世なのは確かだ。一度話をお伺いしてみたらどうだ?」
「そうですね」

早速その日の夜、話を聞きに行くスティールだったが、そのことを盛大に後悔する羽目になるとはスティールは元より、そのことを進めたオルナンにも判るはずがなかった。