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◆闇神の檻(2)


「そりゃお前さんの成績で決めてないからな」

コーザはあっさり答えた。

「お前がうちに配属されたのは、一年前に入ったカイザードが俺の部隊を希望して、配属されたからさ」

コーザによるとカイザードは新人の中でも出来がよかったので、将来有望だと見なされたという。それで最初から精鋭部隊に入ることが出来、そのカイザードの運命の相手であるスティールもそのままコーザ部隊所属となったそうだ。
その後、フェルナンが軍団長となり、幹部も入れ替わったが、スティールはそのまま大隊長となったコーザ部隊に残留となった。

「お前さん、出世しそうだからなぁ」
「そうですか?」

出世しそうなどと一度も言われたことがないスティールは驚いた。

「いや、出世しそうだぞ。最初は俺も望みなさそうだと思っていたが、初陣でフェルナン将軍を助けてきただろ。新人の頃は意外と運に左右されがちだ。その点、お前は初陣で生存率の低い中を生き残り、フェルナン将軍を助けてきた。かなりの強運の持ち主だ。運があるヤツは出世するし、生き残れるんだよ」
コーザの言葉を聞きながら、そんなことはないだろうとスティールは思った。
自分にはドゥルーガがいた。そしてあのときはフェルナンを助けるために必死だったのだ。

次にその言葉を思い出したのは、ガルバドス国との戦いで青、赤将軍を捕らえた功績により中隊長へ出世したときのことであった。

「おめでとう、スティール。最年少だな」
「いえ、あの……これは…」
「誇っていいぞ。騎士になって一年にも満たない新人が中隊長というのは前例がないらしいからな」

辞令を告げたコーザも苦笑顔だ。

「言っておくが拒否権はないぞ。それにお前が出世しないと他の奴等が出世できないんだ。
今回の戦いで一番大きな功績を立てたのは二人の将軍をたった一人で捕らえたお前だ。その結果、捕虜交換が行われ、捕らえられた大隊長たちを取り戻すことが出来た。
お前が出世しないと理屈が成り立たないんだよ」

ようするに自分だけの問題ではないらしい。

「いろいろ言われるかもしれないが、言いたいヤツには言わせておけ。お前の功績は間違いなくお前自身のものだ。そこで萎縮する必要はない。
カイザード、ラグディス、ラーディンはお前の部隊に回してやるからうまく力をあわせて頑張れ」

コーザが理解ある上官であるのは助かるが、スティールは先輩より出世してしまったことに今更ながらに気づいて青ざめた。

「あとな…」
「まだ何かあるんですか?」

スティールが思わず問うと当たり前だとコーザは答えた。

「隊長になったら自分の隊を持ち、隊を運営していかないといけないんだぞ。お前は運営どころか隊のことすら、ろくに知らないだろう?」

全く持ってその通りだ。スティールは真顔で頷いた。

「お前の部隊は俺の配下で一番少数の部隊になるが、それでも200名前後の部下持ちになる。そこでだ、お前には副官を二人付けるから、そのうちの一人オルナンに詳しいことは教われ。補給にはカナック、会計にはキリィを付けておく。全員俺の部下でベテランだ」
「あ、ありがとうございます」
「あと、フェルナン様から伝言だ。特別扱いはしないから自力で頑張れだそうだ」
「………はい……」

元より頼るつもりはなかったが、それはそれで突き放されたようで寂しい気がするスティールであった。