文字サイズ

◆闇神の檻(12)


無事、地下を脱出した二人は、二人を捜索していた第四軍の隊に発見された。たまたまその方面を捜索していたのが第四軍の隊だったのである。
本営に戻った二人は、それぞれ、安否を心配していた人々に迎えを受けた。

「シ、シ、シード様ぁああああ!!!」
「お怪我は!?お怪我はあられませんか!?」
「ご、ご無事で何よりですっ!!」

暑苦しい男たちに取り囲まれたシードは手ではね除けながら進んだ。

「おい、血まみれなんだぞ、くっつくな。離れやがれ!!あー、うぜえ。こっちはクタクタなんだ。とりあえず今夜は休ませろ!!」
「はいっ!!おい、浴室の準備を!すぐシード様がご入浴できるよう、準備しておけ!!」
「シード様、浴室へお運びいたしますので!!」
「アホか、歩ける!!それよりアルディンは?」
「ハッ!アルディン様は将軍方との会議終了後、王家へ行っておられるとのことです」
「会議?まさか予算会議を今日に繰り上げたってことじゃねえよな!?」
「違います!!シード様救出のための会議です!!」
「俺?…………ああ、なるほど。そりゃそうなるか。一応誘拐されていたわけだしな。………そりゃ悪いことをしたな」
「いえ、とんでもございません!シード様っ!シード様をお助けするのは当然のことであり、シード様のお力が…」
「あー、わかった、わかった!!それぐらいでいい。俺は風呂に入る。心配かけて悪かったな。お前ら、俺を取り囲むのはそれぐらいにして、とっとと持ち場に戻れ!!」

一方のスティールは第一軍の指揮のために残っていたフェルナンに無言で抱きしめられた。
珍しい将軍の行動に自然と居合わせた人々の注視を受ける。
スティールは戸惑いつつも無言でフェルナンを抱きしめ返した。

「ドゥルーガとシード様のおかげで無事に戻ることが出来ました」
「………あぁ」

カイザードとラーディンの姿はなかったが、恐らくまだ捜索してくれているのだろう。連絡が行くだろうからそのうち戻ってくるだろう。

「見事に計算違いだな」
「は?」
「自力で脱出してくることは計算に入れていなかった。さすがのニルオスもお前の力を信じていなかったのだろう。
無理もない。お前とそして七竜の力は計算しようがない。
今回の件、原因はハッキリしている。後は任せて今夜はゆっくり休むがいい」
「はい」

自室へ戻る途中、スティールは小竜に首を突かれた。

「剣はいつ返してもらうんだ?」
「あ…」
「あれはお前の為に打った剣であって…」
「スティールッ!!!」

小竜の苦情は必死の響きに満ちた声に遮られた。

体当たりするように駆け寄ってきたカイザードにスティールは転びかけた。

「せ、先輩…」
「……っ!!!」

よほど心配してくれたのだろう。泣き出しそうな顔でスティールを強く抱きしめ続けるカイザードにスティールは返す言葉がなく、ただ抱きしめ返した。
カイザードが飛びついてきた勢いで床に転がった小竜は迷惑そうな顔でスティールの腕に小手として戻った。小竜姿でまた飛ばされては叶わないと思ったのだろう。
めずらしくドゥルーガには不運な夜であった。


++++++

そして、夜中のことである。
堅く暖かな何かが額に触れる感触を受け、スティールはうっすらと眼を覚ました。
室内はまだ暗い。夜明けはまだなのだろう。それでもスティールは相手が誰だか判った。ラーディンの手だ。ラーディンが触れている。

「ラーディン?」
「スティール、悪ぃ、起こしたか」

寝ぼけた声に答えた相手は手を引いた。スティールはとっさに手を伸ばしてその手を捕らえた。

「寝よう。眠いよ」
「スティール…」

ベッドへ入ってきたラーディンはスティールを抱きしめた。

「暖かいな…」

スティールの体を抱きしめるラーディンはぽつりと呟いた。命の暖かみを確認するかのような呟きにスティールは胸を痛めた。今日はたくさんの大切な人たちに心配をかけてしまったと痛感する。

「今日、約束破ってしまってゴメンね」
「いや……お前が無事で良かった」

優しく想いが籠もった声に、戻って来れて良かった、そう思いながらスティールは目を閉じた。