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◆闇神の檻(11)


一方、地下で捕らわれているシードとスティールは二人で話し合っていた。
シードはすぐに牢を出るぞと言い出した。

「ええ?すぐですか!?けど、たった二人だけでは危険じゃ…」
「当たり前だ。囚われの姫じゃあるまいし、大人しく捕まっていてどうする。
そもそも、ここにいる時点で既に危険なんだよ。牢に残っていようが安全なわけがないだろ、時間の問題だ。
同じ危険ならさっさと脱出して軍へ戻った方がマシだ。明日は予算会議だしな!」

アルディンには金関係はとても任せられねえ、とシード。
スティールはシードの告げる脱出の理由が予算会議であることに微妙な気持ちになったが、残っていても危険というシードの意見には頷けるものがあったため、脱出の決意を固めた。

「決まったな。じゃあまずは鎖を外さねえとな。俺はヤツと違って繋がれっぱなしになっている趣味はねえ」

(ヤツって誰だろ…)

スティールは素朴な疑問を持ったが、次にあがった悲鳴に思考を打ち消された。

「ぎゃあ!!何をする、やめろっ!!」

声の主はドゥルーガだった。シードが剣を振り上げると鎖を断ち切ろうとしたためである。
新品の剣をこよなく気に入っているドゥルーガはシードの腕に飛びついて制止した。

「そんなことに使って剣を痛めるな!!鍵開けなら俺が出来る!!」

ドゥルーガはスライム状態になって鍵穴に入り込み、あっさりと牢の鍵とシードの手と足の鎖の鍵を解錠した。

「便利だな」

シードに素直に感心され、スティールは曖昧に頷いた。確かに便利だがこんな状況で使用することになろうとは思ってもいなかったスティールである。

(うう、これが脱獄ってヤツか。経験することになろうとは思ってもいなかったなぁ)

幸いにドゥルーガが出口を覚えていてくれたおかげで迷うことはないだろう。ただし、その前に戦う必要があるだろうが。
軽く剣を確かめるように振っているシードは落ち着いている。非常事態に慣れている様子が伺えた。さすがに実戦慣れしている人物らしく頼もしい。

「おい、お前。その剣は借り物であるということを念頭に置いて、大切に使え」

シードの様子を不安げに見つつ、ドゥルーガが釘を刺している。先ほどの使われ方で不安になったらしい。

「やや小振りだがいい剣だな」
「ほほぅ、判るか!」

不機嫌だったドゥルーガは一気に上機嫌になった。鍛冶にしか興味がない小竜らしく、鍛冶に関することには食いつくらしい。その剣はな…と細工を説明し始めた。
シードは興味深そうに頷きつつ聞いている。

「四重印の力を持つ剣か。生憎俺には地しか使用できそうにないが、それでも十分ありがたいな。さて、とっとと脱出するぞ、スティール。お前を庇ってやる余裕はないから、我が身は自力でしっかり守れよ」
「は、はいっ!!」
「ここは地中だからな、スティール。守り以外に地の力は使用するんじゃねえぞ。地裂斬なんざ使ったら逆に埋もれることになるからな」

冷静な小竜に注意を受け、スティールはぎくしゃくと頷いた。


++++++


白兵戦はあまり得意じゃないというシードはそれでも十分強かった。さすがに戦場慣れした人物らしく、敵が現れても狼狽えることなく倒していく。
小竜は素早い動きで敵へ雷撃を降らせていく。ドゥルーガの雷撃は武具を持った敵を痺れさせてしまう。その隙を逃すシードではなく、一人と一匹はいいコンビで的確に敵を倒していた。
スティールは主にその二人をサポートするように動いていた。背後から来た敵には遠慮無く炎を飛ばして威嚇し、前方は二人に任せる形で進んでいた。
幸い通路は一度に対峙する人の数が限られる。それが少数であるスティール達のプラスになっていた。

「あの先は大広間みたいなところだ。真っ直ぐ突っ切れ。俺が目障りな奴等は先に倒しておいてやる」

パッと飛んでいった小竜は通路の先へ消えていった。
次の瞬間、間近で雷が落ちたような轟音が響いてきた。

「お前の武具は本当に凄いな。雷神のようだ」
「そ、そうですね…」

小竜に任せて、広間を突っ切った二人は広間を確認することがなかった。
そのため、その広間で小竜に倒された人々を見ることもなかったのである。