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◆闇神の檻(10)


一方、近衛軍の騒ぎは第五軍から全軍に広がっていた。
深夜、本営の会議室には全軍の将軍が集まっていた。

「スティールとシードが一緒にいる可能性は高いだろうな。シルバ公爵家が邪教を信仰しているという証拠は、スティール自身が掴んできた書類にあった寄付金の欄に明記された名で明らかだ」

ニルオスの表情は苦い。アルディンが関わっていることが理由の一つであることは間違いないが、スティールとシードの拉致を防げなかったことが気にかかっているのだろう。知将であるニルオスが、敵に先手を打たれたことを忌々しく思っていることは間違いなかった。

「仮にも七竜の使い手と副将軍だ。簡単に殺されることはないだろうが、簡単に救い出せるとも思えん。それなりの使い手を二人拉致しているのだから、油断は禁物だ」

「それで場所は?手がかりはないのか?」

やや青ざめた表情でフェルナンが問うとニルオスはため息を吐いた。

「根城があるのは確かだが、まだ発見されていない。入手した書類にも書かれていなかった。スティールが破壊した場所は支部の一つだったようだが、見事に粉々になって地中に埋もれてしまっていて、調査ははかどっていない」
「昨日の今日だ。無理はなかろう」

冷静な指摘はリーガだ。
イライラした様子のディ・オンが声を荒上げた。

「全軍で総力を挙げて、手当たり次第に探すわけにはいかねえのかよ。シード様が攫われてんだぞ!」
「派手なまねをしたらこちらの動きを悟られてしまうだろうが。その結果、敵を焦らせ、人質の身を危うくしてしまうだけだ。慎重に行わざるを得ないんだよ」

ニルオスはアルディンへ視線を向けた。

「アルディン。お前は王子に面会を申し入れるなどして、それらしい行動を取りつつ、時間を稼いでおけ。シードを拉致しているところをみると、奴等もなりふり構わず行動してきている。かなり追い詰められているのは確かだ。焦らせるのはヤバイ。その上でこちらも慎重に行動しなきゃならねえからな」
「判った。……すまん」

元はと言えば、ミスティア家のお家騒動のようなものだ。近衛軍はミスティア家の騒ぎに巻き込まれたようなものである。

「フェルナンも…すまない。お前の相手を巻き込んでしまった」

フェルナンは少し驚いたように目を見開き、ぎこちなく笑んだ。

「いや……仕方あるまい。問題の支部を破壊したのはスティール自身だ。今は無事に助け出すことが先決だ」
「あぁ…」

アルディンが先に部屋を出て行くと、ニルオスは指で卓上を小刻みに叩きつつ、残った将軍たちに告げた。

「では、策を告げるぞ…」